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【名曲紹介】シサスク《星の組曲》第1集『カシオペア座』&第2集『ベツレヘムの星カペラ』

  • 執筆者の写真: Satoshi Enomoto
    Satoshi Enomoto
  • 18 分前
  • 読了時間: 5分
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 この記事はエストニアの作曲家ウルマス・シサスク(Urmas Sisask, 1960-2022)の《星の組曲》の第1集『カシオペア座』および第2集『ベツレヘムの星カペラ』について紹介を試みるものですが、まずは僕個人がシサスクに注目した経緯を書かせてください。


 僕がシサスクを知ったのは、恐らくのらクラシック部のはせさんから教えていただいたのが最初であったと思います。



 この《Voices of the Universe》という作品の動画を視聴したのを憶えています。シャーマンドラムをノリノリで叩いているのがシサスクその人です。和声が抒情的でありながらもエネルギッシュな原始性を感じました。


 その後《銀河巡礼》シリーズも知りつつ、しかしなかなか楽譜は手に入れていない状況が続いていたところ、ふと見つけたのが音楽之友社から出ていた《星の組曲》でした。子供向けということもありますが、この曲と合うプログラムをやる機会がたまたま無く、しばらく本棚の肥やしになっていたのが正直なところでした。


 そんな2022年10月に、松下耕先生が自身の還暦記念に作曲家たちに委嘱して全曲初演のコンサートを開催するとのことで、ラインナップの中にシサスクがいることもチェックしていました。そのシサスクの作品《Nativitas Mundi》を聴いた時も圧倒されました。


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 コンサート当日は作曲者たちも世界各国から来日していたのですが、シサスクは病気のため来日が叶わなかったとアナウンスされました。ただ病気で来日できなかった程度であれば、それは珍しい例ではなかったでしょう。しかし、シサスクは自作への解説文も書いておらず、松下耕先生が代筆していたのでした。こちらは流石に普通のこととは考えにくい、文章を書くことが難しいレベルの病状なのかと心配に思ってはいたのでした。


 その年の12月にシサスクは62歳で亡くなりました。


 本棚にあった《星の組曲》が「存命の作曲家の作品」でなくなったことにはえも言われぬ喪失感を覚えました。遅くなってしまいましたが、今月のリサイタルでようやくこれを弾きます。


 シサスクの作品の殆どは「星」をテーマにしたものです。


 《星の組曲》の第1集『カシオペア座』はシサスクが14歳の時に初めて書いたピアノ曲を含む作品です。一方の第2集『ベツレヘムの星カペラ』はそこから20年後に書かれました。「子供のための」と題されている通り、大人でなければ物理的に弾けないような超絶的な技能を要求する作品ではありませんが、しかしその音響表現は決して幼稚なものではなく、むしろ普段からクラシックに親しんでいる人にとってさえも刺激的なものです。


 前段が長くなりましたが、この後これらの組曲についてコメントしていきます。



第1集『カシオペア座』


 組曲とはいっても、第1集は散発的に書いた曲を集めたものとしての性格が強いと思われます。


おおいぬ座(奴隷のうた)

 重々しいメロディはA音を主音とするドリア旋法に基づいています。この1曲目にして既に低音部における白鍵のクラスターが登場します。


カシオペア座

 楽譜には明記されていませんが、恐らくシサスクが最初に書いた曲はこれであると思われます。親しみやすいメロディを持つA-A'-B-Aという形式の小品となっています。シサスクの他の作品は知らずとも、この曲だけは知っているという人が周囲に数人いました。中間部Bは舞曲調になります。


オリオン座

 増6の和音が印象的な音楽です。中間部には歌謡的なメロディも登場しますが、それ以外の部分は和声の揺れ動きで音楽が作られていきます。


やぎ座

 独特な和声感をもつワルツです。主調はA-mollっぽく聴こえるのですが、Disの音で宙吊りのまま終わります。



第2集『ベツレヘムの星カペラ』


 カペラは御者座の中で最も明るい二重連星です。シサスク曰く、エストニアではカペラは沈まない星であり、クリスマスの時期に南の空に一層明るく輝いて見えるため「クリスマスの星」と呼ばれるそうです。この組曲もまた巡る季節とクリスマスを題材に書かれています。7曲から成り、楽譜上はattaccaである曲間とそうでない曲間がありますが、シサスクの自作自演音源を聴く限りでは殆ど全てattaccaのようです。


カペラ ━━ うららかな星

 楽曲を通して鳴り続けるA音の上に装飾が煌めき続けるという構造の音楽です。特定の主題というよりは即興演奏のように聴こえるでしょう。後半部では鳴り続けるA音の下方にも音が追加され、和音のヴァリエーションを増やします。



カペラ ━━ 明るい星

 ミニマリズム的な性格の強い曲です。右手は特定の構成音に基づくパッセージを繰り返しますが、このパッセージはヴァリエーションが不規則に交代します。その合間を縫うように左手の単音が色合いを変化させていきます。


カペラ ━━ 輝く星

 この組曲の中でも特徴的な曲の一つでしょう。左腕を使って低音部の白鍵を押さえ、右手でスタッカートの音を置いていきます。するとペダルを踏む効果とは異なる残響が空中に残るように響きます。



カペラ ━━ ベツレヘムの星

 お馴染みグルーバーの《きよしこの夜》のシサスクなりの編曲です。楽譜にはエストニア語と英語で歌詞も書かれています。ベツレヘムの星が何を指すかはわざわざ書かなくともおわかりになるでしょう。



カペラ ━━ 沈まない星

 エストニアではカペラが一年中見える星であるというシサスクの考えから、エストニアの4つの童歌を春→夏→秋→冬→春にあてて引用し、一年が巡ることを表現しています。こちらもミニマル色の強い音楽です。


カペラ ━━ 二重星

 カペラが二重連星であることから、長二度音程を伴う二声の構造の音楽です。所々にはクラスターのような和音も聴こえてきます。


カペラ ━━ 御者座の星

 組曲の終曲であり、全曲中で最も運動性の高い音楽です。自作自演音源によると中間部の左手の三和音の連打は遅くせずに突っ切るニュアンスのようです。



 シサスクは第2集『ベツレヘムの星カペラ』について、「このピアノ曲集が、すべての季節を通じて演奏され、たえまない輝きとあたたかさ、愛とやすらぎで私たちに生命を与え続けることを願っています。ベツレヘムの星カペラのように。」と書いています。まさにシサスクの調和への願いが反映された作品であることを、たった今弾きながら感じています。


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