先の6/12に行いました『アンサンブルの作り方』の録画配信を公開しました。
コロナ禍の影響もあり、すっかりアンサンブルが貴重なものになってしまった昨今であります。僕自身も、所属している合唱団の対面での活動が自粛されているところであり(医療従事者も含んでいるため)、かなりのアンサンブル不足に陥っていることが否定できません。伴奏の仕事が少しずつ復活しているだけマシといった程度で、時間短縮や回数制限などはあります。
そこで、一度極端に「アンサンブルをする時のゴタゴタする過程を思い出してみよう」というのがこの企画の趣旨でありました。
普通の演奏会やライヴの録画配信はまた別に公開していくのでそちらをチェックいただければ幸いと思いつつ、今回はそのゴタゴタするプロセスも込みで公開となっています。「演奏会をこなしている人間でも準備時間が充分に与えられないとここまで手こずるのか」という点を見るのも面白いかなと思います。
当日はその場でジャンケンをしてパートを決めました。結果、Primoは宮口、Secondoは榎本となりました。
この時点で、本当に二人とも楽譜をまだ殆ど読んでおりません。製本をする時に目に入った程度です。あろうことか榎本が「ベートーヴェンの初期だし、きっとそう変なことはやってない」などという死亡フラグをいきなり立てましたが、それは見事に回収されることになります。
白状しますと、榎本個人としては余裕をもって取り組めるようにベートーヴェンを選んだつもりでした。時間もそこまで長く取れたわけではありませんでしたし、音使いが特異なものを選んで爆死するということは避けたかったのです。
しかし、実際にはベートーヴェンも相当でした。ページ数も少なく演奏時間も短いはずが、その中に詰め込むものは詰め込まれているという充実具合で、普通に凝った曲でありました。
そんなベートーヴェンの音楽に振り回されつつしがみつきつつ、だんだんと音楽を沿わせていくのを見守っていただければ幸いです。
なお、今回は初の試みであるためにどのような進行になるか僕たちでも予想がつかず、実験的な面が強かったため、投げ銭制で行いました。もし録画配信を見て楽しんでいただけましたら、以下のボタンより投げ銭をお願いしたく思います。どうぞよろしくお願いします。
あくまで僕個人の狙いだったものをお話ししますと、演奏者と聴衆とが一体となって音楽を探求するところに持って行きたかったということが目的でした。コロナさえ無ければ客席参加型でやりたかったくらいです。
演奏者自身も初めて楽譜に向かい、これは一体どのような音楽なのだろう?ということをその場で考え、それを聴き手も一緒に考えてほしかったのであります。色々なやり方で演奏し、聴いて確認し、その音楽のちょうどいいところをその場の全ての人で探すことをやりたかったのです。
通常の演奏会という場では不可能なものがいくつかあります。
いくら音楽の場を共有するとは言っても、演奏者と聴衆という立場に境目があります。演奏者は予め作ってきた音楽を聴衆に届け、聴衆はそれをどうしても受け取ることになります。
しかも、演奏会の音楽は一回性のものです。「そこもう一回聴きたい!」という繰り返しは利きません。聴衆がその音楽を吞み込めようと呑み込めまいと、演奏者は音楽を先に進めてしまいます。聴き手はどんな風に聴けば呑み込めるのかということを考えながら聴くでしょう。それに関して「家でレコ勉しろ」と、固定化されたものをリピート再生させるのは酷であると感じます。
演奏家としての視点から、「こんな風に聴いてみたら面白いかもよ」「この部分を抜き出してゆっくり、ハーモニーを確かめながら聴いてみようよ」などとヒントを提示しつつ、少しずつ聴かせて耳を馴染ませてゆくことによって、最後に奏でられる一回性の音楽を呑み込めるかもしれないのです。むしろ聴き手の側から「そこ、じっくり聴かせて!」「もしかしてこういう音楽なのかな」などと声を上げてもいいかもしれません。
「音楽が分かる人だけ聴きに来ればいい」というスタンスには僕は反対します。そうではなく、新しい音楽に気付かせること、聴きに来た人たちの音楽の世界をほんの1ミリでも拡げることを僕は大事にしたいです。
音楽を理屈で説得しようと思えばいくらでもできるのですけれど、耳と心で呑み込めることには絶対に及びません。どちらかと言えば、人の心に訴えかけるのは手品のタネの方ではないでしょう(もちろん、好奇心を満たすことは多々あります)。
普段のTwitterでは何故か理屈系のツイートが伸びがちです。それ自体はありがたいのですが、それはあくまでも小ネタに止めます。演奏会のMCではむしろ聴き方のヒントになりそうだと僕自身が考えるものを提示していこうと改めて思いました。
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