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【名曲紹介】ベートーヴェン《ピアノソナタ第13番『幻想曲風ソナタ』》Op.27-1

  • 執筆者の写真: Satoshi Enomoto
    Satoshi Enomoto
  • 1 日前
  • 読了時間: 6分

更新日:9 時間前


 Op.27-2の方が有名だし分析も楽だしということで先に記事を書いたわけですが、やはり「月光」ばかりを取り上げてその工夫を賞賛しながら、より珍妙な構成をもっている第13番Op.27-1をスルーしておくのはよくないであろうと思いまして早速書くことにしました。



 ベートーヴェンのピアノソナタの中で、第13番と第14番は『2つの幻想曲風ソナタ』としてOp.27という作品番号にまとめられています。その内の第14番の方が一般に「月光」と呼ばれて親しまれている一方、第13番はお世辞にも人気とは言えない扱いを受けています。僕でさえ、きちんと第13番がどのような曲であるかを認知したのは音大に入ってからでした。もちろん楽譜は手元に持っていたのですが、意識は向かなかったのです。楽曲構成のイレギュラーぶりとしてはどう考えても特筆すべき位置にある作品なのですが、如何せん音楽としての聴き栄えが地味である上に「月光」のようなイメージ戦略による売られ方もしなかったために、一般知名度は今なお明らかに低いでしょう。


 そもそも第13番のどのような点が当時の他のソナタと比べてイレギュラーであったかと言えば、何よりもまず楽章と捉え得るであろう全てのセクションがattaccaという指示で接続されていることが挙げられます。またそもそも楽章の区切りについてすらも様々な解釈が考えられまして、この第13番が3楽章構成であるか4楽章構成であるかと時点で既に言説が割れます。そのような構成をもっているからこそ『幻想曲風ソナタ』であるわけですが…。


 榎本はどちらかと言えば4楽章構成説を採っていますので、その見方で解説を書いていきます。そもそも幻想曲形式と言ってしまう方が本質には近いのでしょうが、記事としては整理しにくくなるのでそのようにさせてください。


第1楽章

Andante-Allegro-Andante


 多くの解説がAndante→Allegro→Andanteという変遷にのみ着目してこの楽章を三部形式としているのを見ますが、実際にはA→B→A'→C(ここがAllegro)→A"→Codaという形式になっています。したがって、これは主題の変奏を伴うロンド形式と捉えてもよいのかもしれません。主題の性格はまるでロンドからはほど遠いですが…。


 いずれにせよ、流石にソナタ形式と言い張るのは難しいでしょう。変奏が加わりながらも主題が戻って来るのが分かるという点でロンド形式らしいと言えるのであり、挿入されるエピソード部分は主題に比べると自由度の高いものとなっています。Allegro部分はハ長調に転調しており、この調は主調である変ホ長調にとって「平行調の同主長調」という関係にあたります。



第2楽章

Allegro molto e vivace


 最初の小節は実際の音楽上ではアウフタクトとして認識されるべきでしょう。フレーズ上の括りとしては3/4拍子というよりはむしろ6/4拍子と捉える方が実態に近いと思ます。それでも3/4拍子で書かれていることには拍頭のアタックや和音配置のまとまりを示す意図があるのではないかと考えられます。



 明記されていないとは言えど、きちんと実質的なトリオとしての音楽が書かれている部分(変イ長調の部分)もありますので、この楽章がスケルツォであることは容易に想像ができるでしょう。


 トリオから戻って来た後、ラストにかけては右手が左手よりも8分音符分遅れて交互に鳴らされるようになります。テクニックの華々しさというよりも、これまで聴いていたこの楽章のテーマにディレイがかかって聴こえるような効果を狙ったものではないかと思います。この部分から逆算してテンポを決めるのが良いでしょう。



第3楽章

Adagio con espressione


 ここからの第3楽章と第4楽章を合わせて「序奏付き第3楽章」とする解釈もありますが、このAdagio con espressioneの部分だけで三部形式になっていますので、一つの緩徐楽章と見做してよいと個人的には考えています。変ホ長調に転調する部分が中間部と見做されます。



 第4楽章が変ホ長調であるわけですが、そのドミナント上でカデンツァを披露した後に次の楽章へ突入します。



第4楽章

Allegro vivace


 ソナタ第14番(いわゆる「月光」)でもそうでしたが、Op.27のソナタは両方とも重心が終楽章に置かれています。第13番においてはやはり第4楽章がロンド・ソナタ形式として大きく比重を占めています。ロンド形式と説明されることが多いように感じますが、ソナタ形式と捉え得る要素は揃っていますので、「第13番はソナタ形式を持たない」とまでいう説明は流石に言いすぎでしょう。



 階名でド-ラ-ソ-ファ-ミと辿るテーマが主要主題となります。25小節目からが推移部、そして恐らく56小節目からの変ロ長調(変ホ長調にとっての属調)の分散和音のようなテーマが第2主題でしょう。この第2主題は後できちんと224小節目において主調で再現されます。


 82小節目からのロンド主題は間もなく転調を始め、106小節目からは2声の対位法のような展開部が始まります。変ト長調という調号に♭の多い調ですが、変ホ長調にとっては「同主短調の平行調」という関係ですので、実際はさほど遠い関係ではありません。ここでもメロディにはド-ラ-ソ-ファ-ミが鳴り続けており、まさしくロンド主題が展開していることが認識されます。



 255小節目にはフェルマータが書かれています。個人的にはここにもカデンツァを挿入したら面白いだろうと考えております。



 そして256 小節目からがこの作品の面白いところでして、なんと第3楽章のテーマが変ホ長調に変わって回帰します。このような形式ゆえに、この記事では区別した第3楽章と第4楽章が、まとめられて一つの楽章と捉えられることもあるのでしょう。同時代の典型的なソナタ形式を明らかに超えているであろうと評価されるわけですが、このことがまさに『幻想曲風ソナタ』たる所以であると言えましょう。ベートーヴェンが形式や楽章構成の既存の枠組みを拡大しようとしていることが感じ取れると思います。


 266小節目からのPrestoで一気に畳み掛けるように終わりますが、ここでも3度音程下がる形のメロディにはロンド主題の片鱗を聴くことができます。



 このようにして、意欲的な形式構成をもつ実験的なソナタは幕を閉じます。正直な話、この次の月光ソナタよりも第13番の方が実験はあからさまにアクロバットでしょう。しかしなお、第14番の方がむしろ肩の力を抜いて自然な書法で書けており、しかも不動の人気を獲得しているというのは皮肉なものです。


 ただ、この第13番に触れておくからこそ第14番についても気付くことや想像できることが増えるという面も確かにあると感じています。地味かもしれませんが、第14番ばかりではなく第13番にも取り組んでみることを推奨します。

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© 2018 Satoshi Enomoto

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