全日本合唱連盟からメッセージが出されました。
現に、合唱団は新型コロナウィルス感染のクラスターになり得るリスクが最も高いものの一つと言っても過言ではないでしょう。それこそ音漏れを防ぐべく密閉された空間で、大人数が一斉に声を出すわけですから、こんなに条件が整ってしまうものも他にあまり無いでしょう。学校の音楽の授業でも「歌わないように」などと指示されてしまったほどです(そんな音楽の授業ができるのかは疑問ですが)。
どうしても合唱という活動自体が感染拡大のリスクを孕むものです。既に犠牲者も出てしまいました。となれば、集まって歌うということは自粛せざるを得ません。普段の練習は完全停止していますから、もしも運良く早めの終息となったとしても、直後のイベントに参加することが難しい合唱団は続出するでしょう。休眠させた合唱団を再び舞台へと持って行くのには非常に労力が要ることであろうと思われます。
巷では、合唱という形での活動を譲歩しても、音楽活動自体を止めない方法が模索されています。オンラインの合唱練習という試みもその内の一つでしょう。機材環境によるタイムラグ、音質に妥協してでも、歌うことだけは止めないという選択肢です。つまりは「同じ場所に集まらなければいい」わけですから、この方式であれば歌うことはできるのです。
ところで、僕が着目しているのはまた別の選択肢です。「集まって歌えないならば集まらなければいいじゃない!」という発想と並行して、「歌えないならば音楽の勉強をすればいいじゃない!」という動きも観測されているのです。
アマチュアの合唱団であれば、団員の楽典の知識やソルフェージュの能力にばらつきがあるということも多いかと思います。確かにある程度は義務教育中に習ったはずではありますが、その時にもあまり理解できなかった人、昔のことだから忘れてしまった人、等々いらっしゃることでしょう。実は復習であるわけですが、この集まって歌えない時にこそ勉強の時間を確保するというのは、コロナ終息後の合唱団再始動をスムーズにできると考えています。
というのも、楽譜を自分で読んで音を取れるような知識や技術を身に付けておけば、集まって練習ができない期間においても自分一人で練習しておくということができるからです。もう本格的にみんなと歌を合わせることは終息後にして、自力でガツガツと音楽を掘り進めておく期間をこの今に充てても良いと思うのです。
また、集まって練習するという時にはどうしても全体の動きに引っ張られてしまって、自分のペースで音楽に向き合うということがなかなか難しい面もあります。自分のペースで音楽をできるようになるという意味でも、音楽について勉強しておくことは有用でありましょう。そもそも楽典やソルフェージュというものは合唱に限った話ではなく、他の楽器をやるにも、作曲をやるにも、果ては音楽を踏み込んで聴くということにさえも活きてくる、自分が今後やる全ての音楽の基礎力になり得るものであります。
時間と手間さえ惜しまなければ音楽人生を一段階豊かにできるも同然なのですが、普段はなかなかその時間も無いし、手間をかけられないほど忙しいという事情もありましょう。しかし現在、外出自粛に基づく在宅勤務も増え、また不幸なことですが休業せざるをえない方もいらっしゃる中で、時間と余力が生まれているという面もあります。いつもだったら面倒としか思えないものに取り組む好機ではあるわけです。もはや音楽活動できないフラストレーションが溜まっている方もいらっしゃるでしょうから、それをモチベーションに変えて取り組めれば理想的です。
周りを見てみると、仕事は吹き飛んだし収入も断たれたしという理由で動くのももちろんなのですが、やはり音楽家という連中の気質であるのか、どうも「音楽をしないでいる」ということ自体にストレスを感じる人が多い気がします。僕も該当者です。そのおかげもあってか、舞台はどんどん消えていくのにも関わらず、どうにかして音楽から離れないように、音楽を絶やさないようにというエネルギーはそこまで衰えていないようにも見えます。音楽に興味を持つ人が多いほど、このエネルギーは伝播します。
オンラインで歌うにせよ、勉強するにせよ、音楽をこの後も良い状態で遺していけるかどうかは、今この時の行動に導かれることでしょう。舞台からだけは音楽が消えてしまったこの冬眠期を、凍えて眠るだけのものにしてたまるかと思うところであります。
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