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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【雑記】コロナ下の“特集的・小規模コンサート”案

更新日:2020年8月7日


 新型コロナウィルスの影響のある中で、会場にお客様を入れて生演奏で行うコンサートには多くの制約が課されます。実はそれがもたらす金銭的事情が、新たな企画を渋らせたり阻んだりする大きな要因の一つでもあります。


 

 マスク配布やエタノール消毒液の設置というだけならば、経費としてもそこまで大したことはありません。企画を圧迫するのは何を隠そう、お客様同士や演奏者との距離を保つための広い会場を取る費用がかかることと、広い会場を取ったのに座席数をかなり減らさねばならないことによる大幅な収益減です。


 コンサートを行う時の最も大きな支出は会場費だと言って差し支えないでしょう。もちろん大きな会場を借りようとするほど会場費も高くなります。座席数が多いわけですからね。


 また、長い時間借りようとするほどにもちろん費用は高くつきます。クラシックのコンサートの時間は休憩込みで1時間半~2時間ほど。そこに会場設営やリハーサル、片付け等の時間も加えると、絞り切っても5時間くらいは欲しいところです。


 そうそう、ピアノ利用料は会場費とは別の場合が殆どでしょう。ピアニストはピアノを借りる費用もかかりまして、しかも調律する費用も案外高いものなのですよ。


 つまりは…定員が多くて広い会場を、準備や片付けも考えて長い時間借りて、しかも別料金のピアノも借りて調律もするとなると大変な金額になるということはお分かりいただけると思います。


 人間同士の距離を保つためにできるだけ広い会場を取らねばならないことに加えてコロナ禍が追い打ちをかけたことは、定員が大幅に削減されることです。100席あるホールを取って30席しか埋められないというのは普通に赤字が出る集客だと思いますが、コロナ影響下ではそれを定員としなければならないのです。


 僕も60席の大学附属のサロンホールを取って定員20席という案を一時考えることになりましたが、大学関係者が破格で使えるという特殊事情を込みでも経費45,000円以上、チケットを3,000円で売って満席にしても最終的な利益は15,000円に届かないでしょう。これが一般のサロンだったら普通に足が出ます。


 収益をきちんと出せる保証が無いということ、収益を出せるとしてもそれは微々たるものしか期待できないであろうこと…それこそが現状において生演奏のコンサート企画を渋る理由です。


 

 さて、ここでどうにか限られた座席数と高くつく会場費&設備費という制約を守りながらも、どのようなコンサート形態ならば収益を出すことができるかを考えるわけです。


 そういえば、あまり気にしていませんでしたが、もう一つ条件がありました。長時間同じところにが留まっていることでリスクも上昇するはずです。となると、約2時間という一般的なクラシックのコンサート尺自体もなかなかリスキーになってくるのではないでしょうか。


 ……


 ふと気付きました。


 短時間のコンサートを1日のうちに複数回行うというやり方があり得るのではないかと思ったのです。例えば会場を6時間借り、1時間に満たない程度のプログラムを安い値段で1日4回公演するのです(その他は準備や片付け、さらにはお客さん入れ替えと消毒と換気の時間)。薄利多売というやつです。



 小規模なサロン等では座席数を増やすほどお金がかかるところがあります。30席入れるサロンは普段ならばもちろん30席を用意するでしょう。しかしコロナ影響下においては、用意するのは10席でいいのです。つまり座席にかかる費用が抑えられるのです。先の例に当てはめれば、10席分の利用料で40席を確保できます。


 チケットは安く…普段は3,000円のところを、例えば1,500円にしてみましょうか。全ての回を満席にできれば1,500×10×4=60,000…おお、今まで通りとはいかないまでも、プラマイゼロよりはマシな結果が出そうです。


 これを、より長い時間会場を取り、公演回数を増やして行うことによって収益をさらに増やすことが(理屈上では)できます。


 

 問題点もいくつかあります。


 まず、休憩を挟んで2時間ほどのプログラムに慣れているであろうクラシックの聴衆が、果たして休憩無し1時間未満のプログラムで満足できるかということ ── 翻って言えば、演奏家の側が1時間に満たないプログラムで聴き手を満足させることができるかということ。時間がただでさえ半分です。音楽の密度が今まで通りならば、おそらく充実感はスカスカになってしまうでしょう。1時間でお腹いっぱいにするだけの充実した構成と内容とをもってコンサートを実行できなければ、「時間が短い分だけ手を抜いていて、その代わりにチケットが安い」と思われてしまっても無理はありません。2時間かけてじっくり浸透させていたエネルギーを1時間以内にぶつけるというコンサートスタイルに演奏家も聴衆も慣れる必要がありますし、果たしてそれに慣れてしまってよいものかという躊躇もよぎります。


 そして、それと地続きでもあるのですが、演奏家が1日に4公演も5公演も同じプログラムを演奏して、果たして気迫を維持できるかという問題があります。何度も弾くほどに緊張感は緩んでくるものですし、体力も大きく削られます。このコンサート形式は、演奏者にメンタルでもフィジカルでも厳しい試練を課すことになります。非常にハードだと言えるでしょうし、もしかすると2時間プログラムを1回だけやるよりも大変な面もあるかもしれません。演奏家からすれば完全に持久戦ですが、かといって手を抜いて後に温存しようという考えは必ず露呈します。これまでのコンサートとはまた別のステータスが求められるでしょう。


 

 と考えると、どんなコンサート構成を組んだら1時間未満でそれなりの満足感を提供できるかと考え始めます。『ららら♪クラシック』や『題名のない音楽会』は30分、『名曲探偵アマデウス』は44分、『N響アワー』は60分…とTV番組を参考にしてみると、あれら程度の内容と尺で試行錯誤してみるのが良さそうにも思えてきました。今までの「特別な音楽的時間」を演出する超弩級プログラムではなく、それこそカフェに入ろうとか、TVを観ようとか、その程度の心持ちで聴けるものでもいいのかもしれません。


 案はいくつか思い浮かびました。


『意外に大胆なモーツァルト』30分

モーツァルト:幻想曲 KV475 、 ソナタ KV457


『ファンタジック・ベートーヴェン』32分

ベートーヴェン:幻想曲風ソナタ Op.27

 (第13番、第14番「月光」)


『バルトークのピアノの年』30分

バルトーク:野外にて Sz.81 、ピアノソナタ Sz.80


『新ウィーン楽派概観』40分

ベルク:ピアノソナタ Op.1

シェーンベルク:3つのピアノ曲 Op.11

シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19

ヴェーベルン:変奏曲 Op.27


『ドビュッシー・イメージ』35分

ドビュッシー:映像 第1集、第2集


『展覧会の絵』30分

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」


 …等々、焦点を思いきり絞って特集的なプログラムを組んでみると、意外にもまとまりそうですね。


 

 長い時間、多くの人を集めて留まってもらう形態のコンサートは現状では難しいでしょう。ならば今のうちに、定員を少人数に絞る代わりに、時間の短い「特集的コンサート」を回数こなすというやり方を試行してみるのもアリかもしれません。


 振り返ってみると、クラシックに普段馴染みのない人たちがいきなり2時間のコンサートに足を運ぶ気にはなりにくいでしょう。そんな人たちにも「このコンサート1時間だけだから! しかもチケットも安いから!」と呼び掛けられるかもしれませんよ。


 僕自身は今月中はあまり動けないですが、近々(感染対策はもちろん行った上で)企画してみようかと思います。


 

 追記。


 この記事を読んだフォロワーさんから「ラ・フォル・ジュルネも1枠45分ですね!」という感想をいただきました。盲点でした。LFJとの違いと言えば、用意する全ての枠で自分が演奏せねばならない点でしょう。LFJの1枠分だけが聴けると思えばいいかもしれませんし、あるいは近場でこのスタイルのコンサートを複数の音楽家が開けば自然発生的にLFJができたりするかもしれません。ハシゴとはいえ、人数は絞りますし距離は取りますし飲食はありませんし滞在時間も短いですから、飲み会よりはリスクは少ないでしょう。こんなことを検討してみるのも面白そうではありますね。

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