音楽に興味を持ち始めた人から聞く要望に、「楽譜(五線譜)を読めるようになりたい!」というものがあります。これに対して僕なり行っている簡易な説明が「五線譜はグラフである」というものです。
まずそもそも、線を並べて音高を表記するという発想はどこから来たのでしょうか。
例えば(音名で)C-D-E-F-G という旋律を表記する際、最も手軽な方法は「そのまま音名を文字で書いて並べる」というものでしょう。しかし文字で書くとなると、シンプルな旋律ならいいですが、音数が多くなると見映えがごちゃごちゃしてきます。
ということでまず思い付いたのが、使う音の数だけ線を用意してその上に点の形状で書き記すというものです。この線はC、この線はD、などと決めるのです。
しかし、このような書き方だと今度は音の種類が増えた時に線の本数も増えてしまってやはり読みづらくなってしまいます。
そこでもう一捻り考えた。「線と線の間に点を置いても読めるじゃん!」と気付くわけです。下の図ではCとEの間にあるD、EとGの間にあるFが「線と線の間」で示されています。これで線の数が少なくても多くの音を表記できるようになりますね。
さらに考えれば、1本の線について、それが何の音を示すかを定義してしまえば残りの線や間が何の音を示すかは自ずと階名や音名を辿って導き出せることが分かります。
そう、「この線は何の音を示しているか」という基準を表すものこそが音部記号です。
G(ト)音を表すト音記号、C(ハ)音を表すハ音記号、F(ヘ)音を表すヘ音記号という3種類があります。ヴィオラでも弾いていない限り、大半の方々はト音記号とヘ音記号を見る機会が多く、ハ音記号を見る機会が少ないであろうと思われますが、ハ音記号を基本に考えると実は後々理解しやすいです。
「この記号の示している線が○の音だよ」という記号なので、実は音部記号は並んだ線を上下することができます。
音部記号が動くことによって、同じ5本の線という見た目でも、表記できる音域が異なることにお気付きでしょうか。
例えばハ音記号で示したもののうち、ソプラノ譜表では中央ハよりも高い音を多く表記でき、アルト譜表では中央ハより高い音も低い音もほどほどに表記でき、バリトン譜表は中央ハよりも低い音を多く表記できます。基準点を下の方に設定すれば上のスペースが広くなりますし、基準点を上の方に設定すれば下のスペースが広くなる、という原理なのです。
そして、ハ音記号で示せる譜表よりも高い音/低い音をより多く表記したいと思った際、ハ音記号が五線から飛び出していってしまいます。ではハ音ではなくト音やヘ音を基準にする音部記号を作って使おう、というタイミングで出てくるのがト音記号とヘ音記号であり、それを用いた高音部譜表と低音部譜表なのです。
この高音部譜表と低音部譜表を縦に並べると、非常に広い音域を表記できる楽譜が出来上がります。これが大譜表と呼ばれ、鍵盤楽器やハープ等の楽譜として用いられます。
五線譜は、縦軸を音高、横軸を時間とするグラフであり、その縦軸の基準点を指し示す記号が音部記号なのです。「楽譜を読む」ということは五線譜の表層だけ読めばいいというわけではないのですが、このように考えておけば表層は読めるようになりますし、その奥へと掘り下げていく取っ掛かりを掴むことはできると考えています。
グラフを読むように五線譜を読んでみてください。
「小さいときから、古い音部記号(の読譜)を練習しておくこと。さもないと、多くの昔の宝をむざむざと逃がすことになる」
シューマン『音楽の座右銘』より
「(シューマンを引用して)しかしそれは唯一の理由ではありません。それというのも、昔の音部記号に習熟することは、迅速かつ確実に読譜するための秘訣であり、音楽家の専門教育の不可欠な部分だからです。しかし根本的にいって、古い音部記号と新しい音部記号があるのではなくて、音部記号が7つあるだけなのです。そして音部記号をよく識っている者だけが、正しく読譜できるのです」
コダーイ『よい音楽家とは』より
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