• Satoshi Enomoto

【音楽理論】グラフと基準点:五線譜と音部記号

 高校で非常勤講師を務めていた時に生徒から頻繁に聞く要望に、「楽譜(五線譜)を読めるようになりたい!」というものがありました。


 五線譜の読み方の学習は本来、小学校の時点で始めているはずであり、義務教育を通してやってきているはずなのですが、責められるべきは生徒の方ではないでしょう。なにせ歌の音を、ピアノどころかCD音源を真似ることで取るような時世です。楽譜を読むことなく、耳だけでやってきたという事例があることは十分にあり得ます。


 そして高校でも楽譜の読み方を教えている時間は無く、楽譜を読む必要が無いように、ピアノ音取りで耳コピさせたり音名を予め振った楽譜を配って直接リコーダーの塞ぐ穴に対応させたりすることによって授業の形にはなっていたわけですが、このやり方では結局「五線譜を読めるようになる」ことは無いのです。そもそもなるべく五線譜を読ませていないわけですから。


 そんな環境でしたが、僕が生徒に「五線譜を読めるようになりたい」と言われたときに行っていた簡易な説明が「五線譜はグラフである」というものです。



 まずそもそも、線を並べて音高を表記するという発想はどこから来たのでしょうか。


 例えば(音名で)C-D-E-F-G という旋律を表記する際、最も手軽な方法は「そのまま音名を文字で書いて並べる」というものでしょう。しかし文字で書くとなると、シンプルな旋律ならいいですが、音数が多くなると見映えがごちゃごちゃしてきます。


 ということでまず思い付いたのが、使う音の数だけ線を用意してその上に点の形状で書き記すというものです。この線はC、この線はD、などと決めるのです。



 しかし、このような書き方だと今度は音の種類が増えた時に線の本数も増えてしまってやはり読みづらくなってしまいます。


 そこでもう一捻り考えた。「線と線の間に点を置いても読めるじゃん!」と気付くわけです。下の図ではCとEの間にあるD、EとGの間にあるFが「線と線の間」で示されています。これで線の数が少なくても多くの音を表記できるようになりますね。



 さらに考えれば、1本の線について、それが何の音を示すかを定義してしまえば残りの線や間が何の音を示すかは自ずと階名や音名を辿って導き出せることが分かります。


 そう、「この線は何の音を示しているか」という基準を表すものこそが音部記号です。


 G(ト)音を表すト音記号、C(ハ)音を表すハ音記号、F(ヘ)音を表すヘ音記号という3種類があります。ヴィオラでも弾いていない限り、大半の方々はト音記号とヘ音記号を見る機会が多く、ハ音記号を見る機会が少ないであろうと思われますが、ハ音記号を基本に考えると実は後々理解しやすいです。



 「この記号の示している線が○の音だよ」という記号なので、実は音部記号は並んだ線を上下することができます。


 音部記号が動くことによって、同じ5本の線という見た目でも、表記できる音域が異なることにお気付きでしょうか。



 例えばハ音記号で示したもののうち、ソプラノ譜表では中央ハよりも高い音を多く表記でき、アルト譜表では中央ハより高い音も低い音もほどほどに表記でき、バリトン譜表は中央ハよりも低い音を多く表記できます。基準点を下の方に設定すれば上のスペースが広くなりますし、基準点を上の方に設定すれば下のスペースが広くなる、という原理なのです。


 そして、ハ音記号で示せる譜表よりも高い音/低い音をより多く表記したいと思った際、ハ音記号が五線から飛び出していってしまいます。ではハ音ではなくト音やヘ音を基準にする音部記号を作って使おう、というタイミングで出てくるのがト音記号とヘ音記号であり、それを用いた高音部譜表と低音部譜表なのです。


 この高音部譜表と低音部譜表を縦に並べると、非常に広い音域を表記できる楽譜が出来上がります。これが大譜表と呼ばれ、鍵盤楽器やハープ等の楽譜として用いられます。



 五線譜は、縦軸を音高、横軸を時間とするグラフであり、その縦軸の基準点を指し示す記号が音部記号なのです。「楽譜を読む」ということは五線譜の表層だけ読めばいいというわけではないのですが、このように考えておけば表層は読めるようになりますし、その奥へと掘り下げていく取っ掛かりを掴むことはできると考えています。



 グラフを読むように五線譜を読んでみてください。

132回の閲覧

© 2023 virtuoso3104 - Wix.com