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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

2/2コンサート後記と、“アンサンブル”すること。

 2/2にDEVTTARE 2nd Concertを聴きに来てくださった皆様、ありがとうございました。

 僕は第1部アンサンブルでピアニストを担当しました。歌や楽器の伴奏、ピアノ連弾といったアンサンブルは日頃からやっていますが、3人以上での室内楽は久しぶりの感覚でした。

 モーツァルトの《アイネ クライネ ナハトムジーク》をピアノ四重奏の編成に編曲するというのも貴重な体験でしたが、今だからネタばらしをしますと、当初は本当に弾きづらいピアノスコアを渡されまして「(物理的な意味で)こんなもん弾けるか!」と思い、メロディを色々なパートに分配してピアノの負担を減らそうとしたのが編曲の目的だったのです。その結果、原曲では延々とベースを弾き続けるはずのチェロがメロディ弾いたりして内容盛り沢山な音楽になったのではないでしょうか。結果オーライだったらいいなぁ。

 あとはサティの《Je te veux》。ソプラノの中林から「たまには王道な曲を弾いてほしいな~」などと言われ、かといってロマン派は性に合わないどころか満足したものを提供できる気もしなかったところ、上手い着地点がたまたまサティだったのです。しかし、このお馴染みの曲をただ単に弾くだけでは、お客さんたちは「お馴染みの曲が聴けたね~よかったね~」で終わってしまう可能性が大きく、それでは得るものが少ないと思いました。そこでアドリブを入れたわけです。お馴染みの《Je te veux》だけれども、こういう演奏の可能性もあるという提示になっていればいいなぁと思います。終演後に「最近ジャズピアノを習い始めた」という方に良かったと言っていただけました。実際、そもそも《Je te veux》はクラシックというよりはポップスですしね。

 

 さてここからは音楽の話。今回のDEVTTAREのプログラムを貫いたテーマは「アンサンブル」だったと個人的に思うのです(DEVTTAREのメンバーがどう考えているかは知らない。あくまでも榎本目線の話)。アンサンブルというものは2人以上で行うため、必然的に共演者のことを考えて音楽を合わせていくことになります。ただ、これは実は意外に高度なことでもあります。

 まず、アンサンブルをすることが決まったらお互いがそれぞれに譜読みや練習を始めます。予めアンサンブルだとわかっていますから、そこまで想定して練習をするわけです。きっと共演者はこうやって弾くだろうから、自分はこうやって練習しておけばいいと。

 …はい、そこで一旦ストップです。「きっと共演者はこうやって弾くだろう」というのは、実は想像にしかすぎない。実際に共演者がそうやって弾くという保証はどこにもありません。共演者がどのように弾くかは、合わせてみて初めてわかるのです。アンサンブルを上手く合わせるためには、合わせながら共演者たちの音楽を聴いてその場で掴んで反応する能力が必要になります。

 アンサンブルを演劇に喩えてみましょうか。楽譜は台本、演奏者たちが台詞を発しながら物語を作っていきます。合わせの前には各自で台詞を練習するわけですね、相手がどんな台詞をどのように言うかを想像しながら。台詞さえ噛み合えばきちんと傍目には物語が進行します。それは出演者=演奏者たちがお互いの台詞を受け止めず、お互いに向かって台詞を発していなくとも、です。しかしそこにはコミュニケーションは成立していないわけです。決められた筋書きに従うだけか、それともリアルが立ち上るか、その差はコミュニケーションの有無なのです。

 アンサンブルはつまるところ、演奏者たちによる音楽のコミュニケーションであるということです。予定の実行ではなく、ナマモノの音楽としてのアンサンブルを行うためには、リアルタイムで音楽を受け止め、リアルタイムで音楽を放たなければいけないわけです。もちろん個々の練習は必要ですが、共演者たちの音楽をその場で捉え、その場で返す練習も必要なのです。合わせ練習とはそのためにあるわけですね。アンサンブルが「一つの機械」になるか「一つの心」になるかは、それにかかっています。そういう面で、アンサンブルは非常に難しい、しかし面白いことだと思いますよ。

 

 偉そうにこんなことを書いている僕も、これをこなせているとは到底言えません。今回だって大いに共演者の皆を一方的に振り回したと思います。如何せん、合わせの回数もそこまで多いわけではなかった…というのは言い訳ですが…

 今までにないほど、音楽を自由にできるようになってきた感覚があるこの頃です。ここからまたどんどん掘り進めていきたいものです。

 というわけで、今月はあと16日にもカウエルを弾きます。今度こそは《富士山の白雪》付き。引き続き、どうぞよろしくお願いしますね。

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