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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【演奏会告知】複合現実演奏会:"Cyber-bird Concerto" in real & cyber spaces


 11月の更新からすっかりブログをご無沙汰していました。なにせ自分のソロ企画といいシェイクスピア『テンペスト』の音楽製作といい伴奏譜読みといい、広報に割ける時間と体力が残っていなかったのです。12/20に行った自主企画コンサート・新型コロナウィルス感染対策トライアル公演『榎本智史ソロ"リハーサル"』の録画はYouTubeに無料公開していますので、そちらもぜひお願いします。


 

 さて、2月にはなんと3つの公演があります。今更ながらそれぞれについて書いていきたいと思います。


 その中でも最初にあるのが『Cyber-bird Concerto in real & cyber spaces』という企画です。



 2/4(木)、2/5(金)、2/12(金)

 各枠定員1名

 会場:大倉山記念館(最寄り駅:東急東横線『大倉山』)

 入場無料

 要予約 特設予約ページより


 平日の午後というそもそも人が来づらい時間帯だというのに、さらに3日間日程中の2日間はなんと緊急事態宣言下です。体調に心配が無い人だけ気を付けて来ていただければ十分だと思っております。入場無料である通り、実はそもそも収益をあげること自体は今回あまり考えていないのです。むしろコロナ禍における今回の特殊な公演形態を提示、実験し、結果が確認できることの方が重要だったりします。


 まず今回の企画は、神奈川県文化芸術活動再開加速化事業補助金をいただいて行っています。自分の手元からは到底出せないほどの大きい金額が動いています。このおかげで買えた機材が本公演のカギといっても差し支えないでしょう。


 そして今回の技術協力者にして共演者である木村佳さんを紹介しておきましょう。「一つ歳上の一つ後輩、プラマイゼロで同期」などという冗談を言っていますが、学部時代から共演の機会があるサクソフォニストです。既に吉松隆の《ファジーバードソナタ》を共演しまして、今回の《サイバーバード協奏曲》はある意味その延長線上にもあります。彼女は岐阜にある情報科学芸術大学院大学、通称IAMASに在籍していまして、その研究創作発表の場も兼ねています。


 曲自体を知らない人のために、吉松隆の《サイバーバード協奏曲》についても書いておきたいと思います。

 

 吉松隆(1953-)は現代音楽の作曲家…というと身構えてしまいますが、本人が経験したプログレッシヴ・ロックのような作風で知られます。むしろどちらかと言えばクラシックを聴く人よりもロックを聴く人の方が親しみやすいかもしれません。そういえば、吉松さんが音楽を担当したNHK大河ドラマ『平清盛』の音楽としても流れていたような気がします。


 この曲は日本を代表するサクソフォニスト、須川展也さんの委嘱で書かれた協奏曲です。ただしサックス単体の協奏曲ではなく、サックス+ピアノ+パーカッションの三重協奏曲の形式をとっています。本当にバンドのようなサウンドが飛び出します。そしてもう一つの特筆すべき特徴が、図形楽譜によるアドリブ指示です。サックスもピアノもパーカッションも暴れまわります。結果的にはこの作品の中でも絶大な効果を上げる部分ではありますが、どうやらこの曲の作曲中には吉松さんの妹さんの看病で多忙を極めており、万が一締め切りに間に合わなかったらソリスト3人のアドリブでなんとかしてもらおうと思ったことで書かれたようです。吉松隆『作曲は鳥のごとく』(春秋社)でご本人がそう書かれていました。今回はサックスとピアノの二重奏版をお送りします。掌や拳を使って弾くことでピアノからパーカッションのような音を出したりもしてみました。


 ところで、この《サイバーバード協奏曲》は"電脳の鳥"というタイトルを持ちながら、鳥要素はあっても電脳要素は曲中にはありません。特にコンピュータや電子楽器、電子音を使っているわけではないのです。ではどのように演奏すれば本当に"サイバー"になるのか?


 そこで考えたのが今回の演奏会の形式でした。鑑賞者は、HoloLens2というゴーグル状の機器を装着します。一般のVRゴーグルなどとは異なり、向こう側が見え、その中に用意しておいた映像が浮かび上がります。リアルにヴァーチャルが交差する、ミクスト・リアリティ Mixed Reality の体験になるわけです。



 通常の演奏会というものは時間と空間の両方を共有します。そしてこの1年で、新型コロナウィルスの感染拡大によって定着した形式であるオンラインライヴは、時間を共有できる一方で空間を共有しません。今回の僕たちの試みは、時間を共有しない代わりに空間を共有します。実は既に僕たちは演奏を終わらせています。会場に来た人たちが目撃するのは、その演奏の残滓や霊のようなものが電脳の中に立ち上る様子なのです。


 その場で演奏していないので、演奏者の飛沫が飛んでくることはありません。それどころか、舞台に上がって電脳の演奏者たちに接近して鑑賞することさえ可能です。鑑賞者が動き回っても演奏者の位置は動かないというもの。特に新型コロナウィルスの対抗策として考え出された技術ではありませんが、結果的には演奏者と鑑賞者が時間という距離を保ちながらも演奏会の空間を共有できるという、テクノロジーによるソーシャルディスタンスを実現できました。どうやら今回の補助金の中でもこのようなアイデアに基づく企画はこの一つだけであるようです。



 白状すると、僕自身も完成形がどうなっているかを確認していません(なにせその方面の技術はありませんので)。先にも書いた通り、ミクスト・リアリティを体験していただくことが目的です。このノウハウを確立することができれば、新たな公演方法、音楽の記録方法を生み出せるかもしれません。ぜひ体験していただき、感想を教えてほしいと思います。


 非常に厳しい情勢が続きます。無理のない程度によろしくお願いします。

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