本番の準備に追われまして、演奏会の告知どころか雑記の一本すら書けない状態ですっかりブログの更新が止まっていました。なにせ今月の中旬からは3週間に5本の本番(ピアノも歌も)が控えているという有様でして…コロナは絶対に拾いたくない時期ですね…
さて、12月には大きな企画が2本控えています。図らずもドイツ・ロマンティック・リートのオメガ(シェーンベルク)とアルファ(ベートーヴェン)が並ぶこととなりました。
12月11日(日)昼
『架空庭園への道』
シェーンベルク《架空庭園の書》Op.15
12月23日(金)夜
『彼方からの愛の歌』
ベートーヴェン《遥かなる恋人に寄す》Op.98
この記事は『架空庭園への道』について書きます。
12月11日(日)
14:00開場 14:30開演
榎本智史 & 小暮沙優デュオコンサート
『架空庭園への道』
会場
ソフィアザール・サロン(駒込)
入場料
3,000円 全席自由
曲目
シェーンベルク
《4つの歌》Op.2
《グレの歌》より「山鳩の歌」
《架空庭園の書》Op.15
予約受付
シェーンベルク(1874-1951)は、僕が主な研究対象としているオーストリア出身の作曲家です。西洋音楽史上でもいわゆる十二音技法の考案など重要な役割を果たしました。彼は、当初は濃厚なロマンティシズムを持った作風で作曲のキャリアをスタートし、そこから表現主義・機能和声の停止へと傾いていきました。
そのターニングポイントにもいくつかの作品が挙げられます。《弦楽四重奏曲第2番》Op.10や《3つのピアノ曲》Op.11もそれに該当しますが…中でも特に転換の決定打となった作品こそが、今回演奏する連作歌曲集《架空庭園の書》Op.15です。
物語は架空庭園に迷い込んだ男の愛とその終わりまでを描きます。この詩を書いた象徴派の詩人シュテファン・ゲオルゲの失恋体験、そしてシェーンベルク自身の私生活における凄惨な事件が反映されている作品でもあります(というと、《弦楽四重奏曲第2番》もほぼ同じ背景を持っているのですが…)
日常的に耳にする音楽と比べて、和音は不協和、旋律は複雑怪奇に聴こえる作品かもしれません。シェーンベルクはこの《架空庭園の書》において、初めて "主和音" を放棄しました。明快なドミソの和音はこの作品の中ではほぼ出てきません。しかし、そのような音使いでなければ表現できないものだって存在するのです。耐え難い苦悩を味わった人間が作った音楽を味わっていただきたいと思います。
そんな《架空庭園の書》だけでは精神的にキツいプログラムになるので、シェーンベルクがそこに到達する前の、濃厚なロマン溢れる《4つの歌》Op.2と《グレの歌》からの「山鳩の歌」もご用意しました。こちらは官能的な空気を纏う作品となっています。
後期ロマン派とは言いつつも、シェーンベルクのそれには既に後年を想像させる斬新な響きが試みられています。プログラム順に聴いていただくことによって、《架空庭園の書》を聴くための耳の準備が整うという仕掛けが組み込んであります。
共演の小暮沙優さんは大学院の先輩にあたります。僕が修士課程に在籍していたのと同じ時に小暮先輩は博士課程にいらっしゃいまして、ヴァーグナーなどを歌っていたと記憶しています。シェーンベルクとその一門はヴァーグナーの音楽を好んでいまして、声楽作品において求められる歌唱技術に似たような部分があると感じます。
実は僕は大学院時代にこの《架空庭園の書》を題材にして論文を書き、楽譜も一通り読み切っています。しかし当時は学内にこれを歌える人がおらず、歌曲伴奏の試験で僕は代わりにヒンデミットを弾いたのでした。ヒンデミットを歌わせるのもだいぶ酷な要求だとは思いますが…
そんなこともあって、ようやくこの《架空庭園の書》を演奏する機会が、しかも絶好の布陣で巡ってきたことは僕自身としても非常に嬉しいことです。今年は先の4月に《月に憑かれたピエロ》もやりましたし、シェーンベルクづいている年になっている気がします。
皆様をシェーンベルクの架空庭園にご案内します。「不協和音だらけの音楽」などと見なされて聴かず嫌いされがちなシェーンベルクの音楽も、徐々に聴き馴染んでいくことで楽しめるようになります。
ぜひご来場ください。ご予約は概要に記しましたメールアドレスまでお願いします。
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