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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【音楽理論】音楽は時間を持っている:音符と拍子

更新日:2020年5月10日

 五線譜をグラフとして見た時に、縦軸が音の高さを示しているという話を以前書きました。


 今回は横軸編です。


 

 短い音、長い音…というように、音には長さがあります。これを専門用語で音価と言いますが、この音価というものはつまるところ、その音が持続する時間を意味します。

 音は時間を持っているのであります。



 したがって、五線譜というグラフの上に「時間を持つ音」を極めてグラフィカルに表記するとすれば、本来は下図のようなものになるはずです。



 はい、音が増えてくると読みづらくてしょうがないと思ったことでしょう。確かに持続時間を厳密に書き込めばそういうことなのだけど、楽譜の見やすさの観点からデザインとしては却下な表記方法になってしまうのです。


 音を表す記号が「持続時間を意味している」という共通認識さえあれば、この読みづらい記号にこだわる必要はありません。そういうわけで、白い点や黒い点、さらにはそれに付けられた旗によって音価を区別するグラフィック=音符という表記方法が覇権を握ったのでした。


 この音符という「点」の形状をしたグラフィックの、ある意味仕方の無い弊害は、音が持続時間を持たない「点」であるかのようなイメージを与えてしまうことでしょう。そのような感覚になってしまうと、音が出る瞬間だけにしか気を配らなくなってしまいます。「点」の表記法を使ってはいても、本当は「点」ではないということを学習過程できちんと認識せねばならないでしょう。


 メロディが1つの音では成り立たないように、リズムも1つの音では成り立ちません。音楽におけるリズムというものも、音が持つ持続時間の相対的関係に基づくのです。

ですからリズムを考える時には、音符は「X分音符はY拍」などと絶対的に覚えるのではなく、音符同士の音価の比で認識することが重要になります。

 二分音符の音価は全音符の半分、四分音符の音価は全音符の1/4、したがって四分音符の音価は二分音符の半分…といったように。



 2分割を基本としているので、X分音符のXに入る数字は基本的に2のn乗となります。「音符を2分割ではなく3分割や5分割にしたい!」という場合には連符という表記を用いるわけです。


 

 ついでにタイや付点にも言及しておきましょう。

 2つ以上の音符を繋げて1つのまとまった音価にする記号をタイと呼びます。これによって、元の音符の1.5倍などといった、単なる2分割や2倍では表せない音価を用いたリズムを表記することができます。



 また、教科書的に言えば「元の音符とその半分の音価を持つ2つの音符をタイで繋げた音価」を示す表記方法が生まれます。それが付点です。

 点が1つ付いた時は「元の音符の半分の音価を足す」=つまり音価は 1 + 1/2 倍、点が2つ付いた時(複付点)は「元の音符の半分の音価を足し、さらにその半分の音価を足す」=つまり音価は 1 + 1/2 + 1/4 倍となります。



(なお、友人であるピアニスト、上路実早生くんから「付点は持続ではない」との指摘を受けました。現代の楽典の教科書的には持続ということになっていますが、それは後世で「結果的に持続として捉えられるようになった」ということであって、特に古典派以前においては持続とは異なる意味を持っていたとも考えられます。上路くんは「音の隙間を埋めるもの。音を伸ばす/伸ばさないという明確な意味は無い」と説明していました。)


 これらの表記方法で書かれた音符が、どのような音価の組み合わせで並んでいるか…どのような “時間” が並んでいるかということを読み取ることが、リズムを読み取る上での基本的な考え方であると言ってもよいでしょう。


 

 音楽において、そのリズムには所々に重心があります。音楽の骨格となる力点とでも言いましょうか。


 それは曲によって変化します…と言ってしまえば元も子もないのですが、パターンは存在します。ある音符を基準に「1拍」と数えると、大抵の曲はその重心が数拍ごとに周期的に巡ってくることを観察できます。


 それが拍子です。拍子は分数で表され、分母には基準となる音価(二分音符なら「2」、四分音符なら「4」など)、分子には周期内に存在する基準音価の個数が書かれます。

 例えば「4/4拍子」と言った時には「四分音符で数えて4拍ごとに音楽の重心が巡ってくる」という意味なのです。楽譜上にはその周期の区切りを示すために小節という単位が設けられ、小節線を引くことによって示されるのです。


単純拍子

 各拍が2分割を基本とする2拍子、3拍子、4拍子を単純拍子と呼びます。最もシンプルな拍子と言えるでしょう。厳密には4拍子は2拍子が2つくっついたものと考えられるのでしょうが、慣例的に4拍子として地位を持っています。


4/4拍子:モーツァルト《ピアノソナタ》KV545 第1楽章

複合拍子

 実は付点X分音符を基準にする方法もあります。これを基準にすると、連符を使わずに3分割の表記ができるようになるのです。3分割した音価を基準に読んだ、6拍子、9拍子、12拍子を複合拍子と呼びます。見た目がなかなか大変そうですが、その実態は3分割を内包する2拍子、3拍子、4拍子であり、それに準じた感じ方をします。例えば6/8拍子は八分音符が6拍で巡る拍子かと思いきや、どちらかと言えば付点四分音符が2拍で巡る拍子であるわけです(※例外はたくさんあります)。


6/8拍子:ラヴェル《クープランの墓(トンボー)》より『フォルラーヌ』

混合拍子

 単純拍子や複合拍子を組み合わせて作られた周期的な拍子を混合拍子と呼びます。

例えば2拍子と3拍子を足すと5拍子になります。そこに2拍子を2つと3拍子を足せば7拍子になります。ただ、この足し算の結果として、8拍子や9拍子など一見単純拍子や複合拍子のようになったりすることもありますが、違いはリズムの重心で判断できます。

 バーンスタインのミュージカル《ウエスト・サイド・ストーリー》のナンバー『アメリカ』の6/8拍子と3/4拍子が交互に現れるパターンについても、この混合拍子の一種であると考えてよいでしょう。


様々な混合拍子:バルトーク《ミクロコスモス》第6巻より

変拍子

 拍子が不規則に切り替わるものを変拍子と呼びます。周期的な感覚が無いことから不安感やスリルを伴います。相手が周期的な拍子を日常的に聴き馴れているであろうことを逆手に取る手法です。


変拍子:バルトーク《野外にて》より『バルカローレ』

 

 到底ブログなどという媒体では厳密には説明し切れない事柄ですから、結局はレッスンを受けて地道に勉強するなり、楽典の教科書を購入して読むなりしなければ理解には及ばないのですが、これらについて考える上での根本的な理念は「音楽は時間を持っている」ということです。この音楽の“時間”を捉えるために、人間は音価だの拍子だのという捉え方を考え出したわけです。


 音楽は時間の芸術です。そのような目線で音楽を観察することで、見えてくるものがあるかもしれませんよ。

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