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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【雑記】RADWIMPSの『やどかり』と、人それぞれのアーカイヴ:インプットの話

 自粛要請を受けて、引き籠ってできることに徹している方も多いと思われます。これに伴って書籍の売り上げが伸びたという話も聞きますし、映画などを観て過ごす方もいらっしゃるでしょう。

 音楽家たちはどうしているかというと、どうにかネット配信で活動ができないかと模索を始めているのがまず多いかと思います。人前に出て音楽をやってきた人間たちですから、やはり何も動かないよりは動く方法を考えるようです。

 僕の場合は身内が具合悪くて(コロナではない。たぶん)、家のピアノさえも自粛せねばならず、しょうがないのでブログ書くこととマスクを手作りすることに精を出していますけども。



 さて、今回の記事は、いかに外向きの行動を模索するかという話ではなく、いかに内向きの行動を充実させるかという話。アウトプットのツール探しではなく、インプットの話題。


 この自粛期間を様々なもののインプット期間に充てることができます。読書、映画鑑賞、音楽鑑賞、筋トレ、ゲーム、料理、裁縫、掃除…他にも色々と考えられるでしょう。音楽家たちも、インプットの面では譜読みをしたり、音楽研究をしたりしていることかと思います。僕も相変わらず積み上がった資料を読んだり、普段聴かない音楽を聴いたりしています。


 

 ところでこのインプットという行為は、なにも芸術表現活動を行う人だけのものではありませんでして、これこそは生きる人間全てにおいて適用されるものであります。

 人間、最初から芸術の好みが決まっているものではないのです。それは自分で芸術に向き合うようになる前は周囲の環境からの影響が大きいでしょう。例えば、親が音楽をやっていたという家庭の子供はその影響を受けるものであります。子供に音楽をやらせたかったら自分がやってしまうのが効果的なんですな。


 人間は人それぞれのアーカイヴを持っています。人間自体が記録(あるいは記憶)の保管庫であるわけです。そのアーカイヴが充実していくことによって、人間はその個人の芸術観を獲得し、未知のものに立ち向かう力が備わるのであります。乱暴に言えば、人間を作るのはインプットの質量です。


 RADWIMPSには『やどかり』という歌があります。そのサビの歌詞を引用します。

 http://j-lyric.net/artist/a04ac97/l021424.html

 だから せめて今は持って行こう

 両手にできるだけ持っておこう

 その数がきっと 僕のこと

 教えてくれる気がするから

  (略)

 だから せめて今は持って行こう

 抱えきれないほど持っておこう

 そのすべてが今のこの僕を

 形作っているものだから


 そのすべてが 今ここに僕が

 存在したことの証だから

 僕が言いたいことを全部RADが言ってくれてしまったわけですが(むしろ僕の価値観がRADの影響を受けているだけ)、色々な体験や学びとしてのインプットこそが自分自身を形作るのであります。


 巷で「恋愛しなきゃ良い音楽はできないわよ!」なんて言葉を聞いたりもします。これ、僕は普通にセクハラの一種だと思うのですけど、言いたいことは理解できます。つまり、あくまでそれは極端な喩え話であって、重要なところは「誰かの心を震えさせるためには、自分の心が震える体験を知っていなければならない」ということなのです。


 クラシックの音楽家にも様々なタイプがいます。古典派やロマン派をやることが王道と言われているのは人気があるからというだけで、ルネサンスやバロックに情熱を傾ける人、近代音楽や現代音楽に興味を見出だす人…それは、その音楽家がどのような音楽を自分自身のアーカイヴに取り込んできたかということに基づくのです。

 ちなみに、僕が現代音楽に興味を持った切っ掛けは、N響アワーを視聴していたことです。あの番組でメシアンや三善晃を知りましたし、もちろん多くのクラシックのオーケストラ作品を聴くことになりましたね。

 俗に言う「耳が肥える」というのは、その人のアーカイヴに保管されてきた音楽によるものです。つまり多くの音楽を聴いてきて知っているということです。そしてそれは音楽に限りません。美術も文学も演劇も同じこと。さらには生活をリアルに直撃する政治なんかについても、個人の政治的思考は自らのインプットによって作り上げられたものです。


 色々なものを自らのアーカイヴに取り込み、色々なものを感じ取れるようになること、そのためにインプットというものがあると考えれば、インプットという行為が決して表現者だけのものではないということがお分かりになるかと思います。

 義務教育で「これは一体何のために勉強しているんだ? 数学や物理なんて専門家じゃなければ必要ないじゃないか」などと思ったことのある方も少なくないでしょう。特に学生たちは心に留めておいてください、それは人間が自身の中に持つアーカイヴを充実させるためのものなのです。


 

 ここで僕を含めた音楽家としましては、ぜひ皆様には音楽を聴いていただきたい。演奏会が次々に延期・中止となり、収入を奪われたのはもちろんのこと、演奏機会が無くなってしまったことも音楽家たちにとっては精神的にも大打撃なのです。だからこそ動画サイトやSNSへの参入を試みているのでありまして、皆様におかれましては、それらをぜひ視聴してインプットをし、心のアーカイヴに取り込んでいただき、ウィルス終息の暁には演奏会へ足を運んで、どうかお金を落としていただきたい。あわよくばこの度インターネットに参入を始めた音楽家たちも応援していただきたい。

 音楽家だけで音楽界は成り立ちません。すべての人々のインプットへの積極性、そして人間のアーカイヴの充実こそが、人間の文化を守り、発展させるのであります。欧米において芸術文化への理解・支援が進んでいることは、その観点による差もあるでしょう。そのような意味においても、今こそはインプットを実践する重要さを体感する好機であります。音楽を聴き、本を読み、映画を観ましょう。



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