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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【楽譜販売】シェーンベルク《クリスマスの音楽》ヴァイオリン+ピアノ連弾版


メリークリスマス!


 とっくにBOOTHは更新していたのですが、先月の『早すぎるクリスマスコンサート』が終わってから色々と慌ただしく、記事として書くタイミングを逸していました。しかしこの編曲ばかりはどうしてもクリスマスには宣伝しなければならないと思いまして、どうにかこの記事を書いております。


 

 シェーンベルクの作品番号は全部で50を数えます。作曲家としてはあまり多い方ではないように見えるかもしれません。第一次世界大戦前後の約10年ほどに渡って、様々な事情により作品番号の付く作品が世に出なかったことが大きな原因の一つでしょう。


 その間にシェーンベルクは従軍もしていたわけですが、私的演奏協会(当時の最新の音楽に親しむためのリハーサル会)を開催したり、大交響曲構想を《ヤコブの梯子》に転換したり、さらには十二音技法を考えたりもしていました。そして1921年に、十二音技法による《ピアノのための組曲》Op.25のプレリュードが作曲されたのでした(組曲全曲の完成は1923年)。


 そんな1921年に、おそらく身内で演奏するために、とある室内楽曲が書かれました。ヴァイオリン×2、チェロ、ピアノ、ハルモニウムという編成で書かれた《クリスマスの音楽》がそれにあたります。



 外観的には、かつてミヒャエル・プレトリウスも編曲した《エサイの根より》を土台に、グルーバーの《きよしこの夜》も加えて再構成した音楽と見なせるでしょうか。そのような意味では、シェーンベルクのオリジナルな作曲というよりは、自由度の高い編曲と考える方が近いかもしれません。


 このためもあってか、シェーンベルクの伝記などでは残念ながらほぼスルーされる位置にある作品です。先述の通り、シェーンベルクが初めて十二音技法で書いた作品が世に出るのと同じ時期ですから、むしろそちらが話題に挙がるのは自然なことです。


 しかし、《クリスマスの音楽》の構造を今一度確認していただきたいと思います。《エサイの根より》《きよしこの夜》の2曲は、この編曲においてそれぞれ動機化し、拡大形や縮小形、さらには反行形となって、移調形も含めて対位法的に組み上げられていきます。


 十二音技法は「十二の音を一回ずつ使う」などという(実は正確でない)部分ばかりが強調されがちですが、シェーンベルクの十二音技法は「動機のガイド」という面が大きいものです。音列は動機として、反行形や逆行形が用いられることになります。


 同じ時期に書かれた《クリスマスの音楽》と十二音技法の作品の数々は、一見無関係であるように見えて、同様のアイデアの上に構築されていると考えてもよいと思います。いきなり十二音音楽に挑戦するよりも、この《クリスマスの音楽》のような作品から触れ始めることによって、だんだんと十二音音楽の聴き方に馴染むこともできるかもしれません。


 僕が編曲したヴァイオリン+ピアノ連弾版は、原曲よりもさらに少ない人数で演奏が可能です。音域が許すならば、ヴァイオリンパートは他の楽器でもよいと思いますし、適当な歌詞を付けて歌うという手も(hiCが出るならば)可でしょう。それなりに手応えのある対位法が用いられておりますので、精密なアンサンブルを好む方には相応の愉しみを提供できると考えます。


 今や輸送費の高騰と円安の影響で、原曲の楽譜を輸入する際のお値段は3万円を超えます。原曲の編成でないまでも、クリスマスの音楽の対位法を楽しみたい場合、さらには最低限の編成でいいからコンサートなどで演奏したいという皆様は、ぜひこの編曲をご購入ください。榎本から皆様へのクリスマスプレゼント(有償)みたいなものです。今年のクリスマスはもう今日ですが、来年のクリスマスにでも演奏していただければ幸いです。



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