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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【出演告知】バッハから100年前と100年後:及川音楽事務所オータムサロンコンサートⅥ

更新日:2021年10月26日


 すっかり伴奏依頼にかまけてソロの演奏をしていなかった榎本です。6月の配信ライヴ以来でしょうか。本来ならば10月半ばにもコンサートがあったはずが、先日までの感染拡大の影響を受けて延期となりました。昨日の神奈川県の新規感染者数は200人を下回りましたし、僕の知り合いも複数人餌食になったあのピークがまるで悪い夢だったかのようです。


 さて、第6波が来ないうちにとソロ出演の告知です。出演者の空き枠があった日に入れてもらいました。


 

2021年11月21日(日)

13:50開場 14:00開演

及川音楽事務所オータムサロンコンサート


会場:タカギクラヴィア松濤サロン(渋谷・神泉)

チケット:全席自由 2,000円


出演:本田享子(Sop.)、デュオ・ベルヴェーヌ(Vn. & Pf.)、榎本智史(Pf.)他


予約/問い合わせ:当サイトContactページより


曲目(榎本)

スウェーリンク《わが若き命果てぬ》

フランク《前奏曲、フーガと変奏曲》Op.18


 


 コンサートの中の20分だけの出演となります。他出演者たちのプログラムは後々出た時に追記したいと思います。


 さて、今回弾くのはスウェーリンクとフランクという、時代の離れた二人の作曲家の(どちらかと言うと)代表作です。



 スウェーリンク(Jan Pieterszoon Sweelinck, 1562-1621)は、ルネサンス末期からバロック最初期にかけて活動したネーデルラントの作曲家・オルガニストです。アムステルダムで定期的に開催したオルガンの演奏会は国際的にも評判になっており、特にドイツから多くの音楽家がスウェーリンクに学びにやってきました。弟子にはシャイト(Samuel Scheidt, 1587-1653)、シャイデマン(Heinrich Scheidemann, 1595-1663)、プレトリウス(Jakob Praetorius, 1586-1651)が名前を連ねます。


 イングランドからはヴァージナルの音楽の華麗な様式と変奏の技術を、イタリアからは対位法の技術をそれぞれ学んで自分のものにし、それをドイツの音楽家たちへと渡したことが、スウェーリンクの功績であったと言えるでしょう。この後の100年でドイツ音楽は大きな発展を見せ、遂にはバッハ(Johann Sebastian Bach, 1685-1750)が登場するのであります。


 彼の鍵盤作品はどれも非常に面白いものなのですが、その中でも今回は最も知られた作品であろう《わが若き命果てぬ》を演奏します。この作品は同名のドイツ民謡に基づく6つの変奏曲です。タイトルの訳は『わが青春は既に過ぎ去り』としているものが多いですが、原曲で「私の憐れな魂は私の身体を離れる」みたいなことも歌っているので、どうもそちらの方向ではないかと個人的には思ったりもします。


 スウェーリンクの変奏曲はオルガンではなくチェンバロで弾かれることも多いそうですが、音色を様々に切り替えられるオルガンではさらに表情豊かな演奏が可能になるでしょう。当日はモダンピアノで弾きます。どれほど多様な表情が出せるかが肝心ですね…



 そんなスウェーリンクと組み合わせて今回弾くのが、19世紀のフランスで活動した作曲家・オルガニストであるフランク(Cesar Franck, 1822-1890)の作品です。ベルギー出身と紹介され、確かに出身地であるリエージュは現在ベルギーに属するのですが、フランクが生まれた当時はネーデルラント連合王国の統治下でした。


 フランスの音楽と聞くと、一般にはフォーレやドビュッシーのような音楽を想像されるでしょうか。フランクがパリで対位法を師事したのはレイハ(Antonin Rejcha, 1770-1836, ドイツではライヒャ、フランスではライシャなどとも呼ばれる)でした。ベートーヴェンの盟友であり、リストやベルリオーズ、グノーの先生でもあります。その影響も受けてなのか、フランクの音楽の作風はドイツ音楽へ傾倒した堅牢な構成や半音階的な和声を特徴とします。ベートーヴェンやリスト、ヴァーグナーあたりを理想としていたかもしれません。


 しかし、フランクが熱意を傾けたドイツの作曲家が過去にもう一人いました。そう、バッハです。バッハの対位法を研究し、その成果が作品に反映されている面は指摘できるでしょう。


 今回演奏する《前奏曲、フーガと変奏曲》Op.18は、1858年にフランクがサント・クロチルド聖堂のオルガニストに就任してから書かれたものです。フランクはこの聖堂のオルガンをたいそう気に入ったようで、1860年から数年かけて『大オルガンのための6曲集』と呼ばれる6つの作品を生み出します。すなわち、


《幻想曲》Op.16

《交響的大曲》Op.17

《前奏曲、フーガと変奏曲》Op.18

《パストラール》Op.19

《祈り》Op.20

《フィナーレ》Op.21


 …という6作品です。見ての通り、《前奏曲、フーガと変奏曲》はその第3曲にあたります。「前奏曲とフーガ」という伝統的な構成をベースにしながら、さらに前奏曲のテーマを回帰する「変奏曲」を加えた点に、循環形式を好んだフランクの創意が見えるかもしれません。


 この作品は作曲者本人によってハルモニウム + ピアノの編成に編曲されている他、後世の様々なピアニストたちの手によってピアノソロ編曲も為されています。このピアノソロ編曲の数々の鳴り方が結構様々でして、音が薄すぎたり厚すぎたりするものもありますので、編曲を選ぶ段階で注意が必要ですし、あるいは自らの手で加減しながら編曲するといったことも求められるかもしれません。


 フランクには元々ピアノのために書かれた作品もあり、そちらの方がかっこいいですし世間的にも人気だとは思うのですが、決してピアニスティックとは言えない《前奏曲、フーガと変奏曲》を愛する人も意外に少なくはないように感じます。


 

 というわけで今回のプログラムは、バッハから100年前のスウェーリンクと、バッハから100年後のフランクを組み合わせるというコンセプトです。歴史の繋がりの両端とも言えるでしょうか。個人的には、ここまで年代が離れているはずの作品がどこか似ている気がするということの方を示したいと考えています。


 普段ならば近代の不思議な音楽をやるところなのですが、コロナ疲れも酷い時期でしょうし、刺激的すぎる音楽が痛みを伴って響く時もあるでしょう。感動してほしいなどとは思いませんが、じっくりと味わえる音楽を提供できればと思っております。


 引き続き健康にお気をつけて、ご来場いただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。

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