• Satoshi Enomoto

【後記】おふらぼVol.1:作曲者を囲んで歌曲・合唱曲を歌う


 作曲家・合唱指揮者である森雄太さんが主催した、作曲者をゲストに呼んでお話を聞きながらその歌曲・合唱曲を歌ってみようという企画『おふらぼ』Vol.1が、先の6/11(土)に開催されました。


 僕も作曲家ゲストの一人として呼んでいただきまして、『令和』の元号が発表された時に書いた無伴奏混声合唱曲《時に、初春の令月にして、》について喋りつつ、参加者の皆様に歌っていただくという非常に贅沢な会となりました。




 

 今回ゲストに呼ばれた作曲家は、プログラム順に、齋藤大輝さん、榎本、ながはなさんでした。3人とも毛色の異なる作風をしているので、コントラストが大きい面白いプログラムになっていたと思います。


 齋藤大輝さんの曲は童謡《おにぎり》と歌曲《自粛警察》でした。齋藤さんは東京藝術大学声楽科の出身で、介護職員も経験しつつ、地元静岡で童謡オペラや歴史オペラを書いているという経歴の持ち主でして、そこからの影響も作品に多々反映されていました。


 《おにぎり》は雰囲気自体は可愛い童謡ですが、途中に遠隔転調を含んでいるというやや捻った作品です。そうは言ってもメロディ自体が歌いにくいわけでもなく、階名で譜読みするのにも難しさはありません。それどころか良質なソルフェージュ教材として使うこともできるでしょう。その転調先が変ホ長調である理由についても、裏話としてモーツァルトの《フィガロの結婚》が引き合いに出されたりと、オペラに精通する齋藤さんらしい発想を聞くことができました。


 《自粛警察》の曲調もまた、齋藤さんの経験や趣向を反映したものなのでしょう。クラシックのみならず昭和歌謡が好きであること、介護している高齢者の皆様向けに軍歌を歌ったら喜ばれた経験などを挙げていました。軍歌というと現代にはセンシティブなものですが、なるほど、現在高齢者の皆様にとっては「子供の頃に聴いた懐かしい歌」であるのも事実です。軍歌かどうかを規定する要素の大部分は歌詞でしょうし、音楽上のみの要素はイディオムとして蓄積することもできるのでしょう。歌の最後にオチをつけるというのも、クラシックの歌曲やオペラからの影響なのかもしれません。


 以前から周りの音楽家たちとの繋がりから、齋藤さんのことは一方的に存じ上げておりまして、そのメロディの創作センスに驚いていたのでした。今回扱った2曲でも、特に《おにぎり》の方などは、巧いメロディのお手本のような箇所がいくつもあります。それらを体験できたのも大きな収穫でした。


 

 僕のターンでは《時に、初春の令月にして、》を取り上げていただきました。森雄太さんが『おふらぼ』を企画してくださったのは、この曲が発端だったりします。


 実はこの曲の世界初演は、森さんが指揮した合唱団によって長野県で行われました。まだ僕も森さんとTwitter上で知り合って間もない頃であり(当時まだリアルでは会っていなかった)、長野まで行くこともできず、遠方から念を送ることしかできなかったのでした。そしてやはり関係者ほぼ全員が小節線の無い音楽にかなり戸惑ったようで、作曲者立ち会いの下で曲を掘り下げたいという思いがあったようです。僕が「長野まで行きます!」とまで言ったのですが、ありがたいことにこちらでより大きな企画として開催してくださったのでした。感謝します。


 僕の話がどの程度皆さんの参考になったかはわかりませんが、非常に良い演奏をしてくださりまして、僕としてはもうそれだけで満足です。むしろ森さんのナビゲートの下で色々話して、自分でも自分がこの曲でやりたかったことに向き合うことができたりもしました。その話はまた別の記事として書きたいと思います。


 

 最後の枠は、ながはなさんの《フォロワー腰を大事にしろ高校校歌》《ほめる歌》の2作品でした。昨年のLutherヒロシ市村先生のリサイタルにて、コールなみとして曲集『よくばり満腹セット』を歌わせていただいてはいたものの、新型コロナ感染防止のために挨拶もできず、この度ようやくリアルで対面となりました。


 またこの枠では《フォロワー腰を大事にしろ高校校歌》の作詞者である 桜葉星菜。さん、《ほめる歌》の作詞者であるみゅーらさんも同席でお話を聞けました。桜葉さんが腰を痛めた話から、TRPGの企画を経由しての曲の成立までの話、みゅーらさんが歌詞の時点で演出を指示する話など、笑いの多い枠となりました。


 どちらも曲自体はコミカルではありつつも、ながはなさんの職人としての技量やジャズ出身ならではのこだわりなどが垣間見え、技術面でも興味深い内容であったと思います。


 《フォロワー腰を大事にしろ高校校歌》の作曲手順について「曲の構成を決めて調を設定して歌詞を割り振ってあとは作業2時間」という話を聞いた時には、これが本職か…と驚嘆しました。慣れればできると仰られていましたが、慣れられるくらい続けられた人間こそが職人になれるのでしょう。


 《ほめる歌》の演奏でながはなさんが休符へのアプローチを説明していたのも面白いポイントだったのではないでしょうか。それこそ僕の《時に、~》とは休符の扱い方、ひいてはリズム感もかなり異なったものであったはずです。ながはなさんのリズム観は僕も演奏面で参考にしていきたいと思いました。


 

 してみると、今回の『おふらぼ』の曲目はどれも方向性が異なるヴァラエティに富んだものでした。森さんの采配にも拍手です。今回はゲストとして呼んでいただきましたが、きっと参加者側でも僕は参加したでしょう。早くもVol.2の動きが見え始めていますから、どんどん盛り上げていきたいですね。


 あらためまして、贅沢で楽しい会をありがとうございました。



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