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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【雑記】恐れられるのは損かもしれない

 演奏業にせよ指導業にせよ、僕自身も一応はそのような活動を展開している身であります。そして、自分なりの音楽へのこだわりは未だに勉強して更新しながらも持っているつもりであります。他の音楽家や音楽指導者の皆様においても、何らかの信念を根幹に据えて活動をしていることでしょう。それ自体は大事なことであると考えて良いはずです。音楽にこだわりの欠片も無い音楽家というのは困りものでしょう。


 事実、僕にもこだわりはありますし、それが偏ったものであるかもしれないとも思っています。僕の場合は変なところが緩くて変なところが厳しいと見られることが多いかもしれません。演奏自体へのこだわりはもちろんのこと、演奏家はキュレーターであるべきだし、新ウィーン楽派の音楽は現代音楽ではないし、12音技法はカオスを生み出すための手法ではないし、階名と音名は区別するべきだし、"音程" と "音高"、"調" と "調性"、"転調" と "移調"などの言葉の混同を避けるべきだし…などと挙げていけばキリが無いです。


 そして実際のところそれらに従って音楽活動をやっているわけであります。


 ところで世はSNS全盛時代。周囲を見渡してみると、広報に躍起となる人で溢れ返っております。いや、僕自身もその該当者ではあるのですけれど。


 そんな広報のやり方として、所謂 "お役立ち情報" 的なものを発信するとより多くの人にリーチするらしい…という話は聞いたことがありまして、そのような事情もあって、発信内容がだんだんと啓蒙じみたものにもなってくるのでしょう。実際、個々が持っている音楽へのこだわりなどを発信することは悪いことではないどころか、普段クラシックのような音楽に親しみの無い人たちにも届く可能性は高まり、それによってコンサートに足を運んでくれる人が出始めたら万々歳かもしれません。


 この時点で苦い顔をする方もいらっしゃるでしょうが、まあこのあたりまでは必然の事象としましょう。


 

 ここからですよ。広報か啓蒙かはさておき、言説や実態に疑問を呈するだけならまだしも、殆ど攻撃のような活動を展開する方々もいらっしゃるわけです。生徒の謝礼の渡し方マナーがなってないとか、お前の発声方法は悪い(「だからうちの教室に入れ」と続く)だとか、例は色々とあります。それらもその方々なりのこだわりでありましょう。


 それがこだわりであること自体を批難はしません。現状で何か不具合があると感じるならばそれを積極的に発信すればよいのであります。謝礼はこうやって渡すのだ、発声はこのようにやるのだ、この音楽はこのように解き明かすのだ、どのように学ぶのが効率が良いのだ…等々。今や発信ツールなど選り取り見取りであるわけですから、ブログでもnoteでも書けばよいですし、InstagramやYouTubeに動画を投稿すればよいのです。それらに接したことによって興味を持つ人もいるでしょう。


 しかし、他人の発信にいきなり否定から入る方もいらっしゃるものです。そして、それが "実際のところ効果的である" という側面もあるような気がしております。というのも、強い言葉を使うことによって信者を得て教祖の地位に立つということが現実的に可能な風潮があるように感じるのです。これに関しては社会的にも心当たりのある方は少なくないのではないでしょうか。


 これによって閉じたサークルを形成することが可能なのです。教祖とその信者たちという構図ではありますが。目指すものが閉じたサークルならばそれをとやかくは言いませんが、もしかするとそのサークルは外からは嫌われているというよりも、恐れられているという状態になるかもしれません。


 

 あくまでも僕自身の方針としては、「あいつはこだわりが強いぞ」と恐れられるというのは意に沿いません。みんなには階名唱でザクザクと楽器無しで楽譜を読んで歌うことに楽しみを覚えてほしいし、軽はずみにシェーンベルクやヒンデミットやバルトークの音楽を聴いて沼に落ちてほしいし、音楽用語を整理してすっきりと音楽理解に利用してほしいわけです。


 外からの力で変革をもたらそうとは思っていません。血が流れる革命は人々の心までは変えられないものです。むしろ人々が内側から変革を欲するようにニコニコと誘導するのがスマートというやつではないでしょうか。階名唱で楽譜から音楽が歌えるじゃん!とか、用語は区別して整理した方がわかりやすいじゃん!とか、音楽以外でも、こうすれば社会はもっと生きやすくなるじゃん!などといった個人の内的な気付きを促すような発信ができたときに、それは啓蒙として世界を動かすのでしょう。


 恐れられるのは損かもしれない。そして世界を明るくできるのも恐れではない。

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