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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【コンサート後記】『バロック=ドラマティック』:人間の歪みを肯定する音楽


 KI企画公演『バロック=ドラマティック』は終演致しました。ご来場くださった皆様、本当にありがとうございました。


 決して僕や出演メンバーはバロック音楽を専門分野にしている音楽家たちであるというわけではありませんでした。普段も演奏しているのは古典派以降でしょう。公演としても、特に古楽器を使ったわけではありません。


 しかしバロック音楽に、その前の時代からの流れや、後世の視点から触れた時に見えてくるものもあると考えています。最初は出演メンバーも「音楽の居所がいまいちよくわからない」という困難にぶつかりながら稽古を続けてきました。去年の冬から取り組んできて、主催に企画を唆した僕さえもが、稽古を通して様々な発見をすることになりました。


 最近は"今のうちに一度やっておく"ということの大切さを感じるようになりました。本当は学生時代にこそそれを詰め込んでもよかったのかもしれません。今のうちに一度やっておけば、次にやる時は二度目になります。一度目と二度目の差は意外なほどに大きいものです。各々が音楽活動の中で次にバロックに向き合う時がいつになるかは運命の巡り合わせによりますが、今回考えたことが活きることになるでしょう。


 本番は主に僕の手元での事故は多少ありつつも、歌い手各々が試行錯誤の末に導き出した今の"答え"を舞台上で示してくれました。僕が家庭の問題で潰れそうになりながらも最後まで弾き切れたのは、彼ら彼女らの歌に鼓舞されたからであると言っても過言ではありません。共演のメンバーには感謝してもしきれません。ありがとうございました。


 コンサートの解説でもお話ししましたが、バロック時代の音楽には感情をドラマティックに表出する側面があります。人々が競争のためにシステムに組み込まれていく現代社会において、人間が人間を保ち続けるための一つの方法は感情を圧し殺さないことでしょう。むしろ表出するくらいでよい。音楽にはその先陣を切ることができますし、その役割を担わなければならないとも思います。


 個の感情などというものはシステム化される社会にとっては歪みと見なされるでしょう。しかしきっと、その歪みこそが人間として失くしてはならないものの筆頭なのではないかと思います。生きることの嘆きも歓びも、音楽は力強く肯定してくれるでしょう。


 ご来場くださった皆様には最大の感謝を! 他のクラシックのコンサートに比べても、決して爽快さ愉快さを気軽に味わえるというものではなく、こちらとしてもハードルを下げる努力はしたものの、内容が内容である故に依然としてハードルは残り続けたでしょう。それでもなお興味をもって会場に足を運んでくださったことは、とてもありがたいものでした。何か心に残るものが少しでもあったならば幸いです。


 出演者一同各々に今後も音楽活動は続いていきます。応援していただけたら、そしてコンサートに足を運んでいただけたら嬉しいです。



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