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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【雑記】“納得”と“説得”:音楽を勉強すること

 時折思い出したように議論が起こる、他愛もない話題があります。


自分が楽しまなければ

相手を楽しませることもできない

vs

自分が楽しめなくても

相手を楽しませるのがプロ

 …というものです。


 かのC.P.E.バッハは著書『クラヴィーア奏法』の中で、「音楽家は自分自身が感動するのでなければ聴衆を感動させることはできない。したがって彼は、聴衆の心によび起こそうとするすべての情緒(アフェクト)のなかに自分もひたることがどうしても必要である。彼が自分の感情を聴衆に示し、そして彼らをそれに共感させるのである」と書いています。


 この文章を持ってくると、バッハの次男が言うなら…と前者に軍配が上がりそうな気にもなりますが、しかしこのどちらがどうのという話を突き詰めたところで、個人の感覚や自身の感情の表明の域を出ることは無いでしょう。議論するにはあまりにもフワッとしすぎている話題なのです。不毛に近いと言って構わないでしょう。


 

 この2つの主張の陣営が、両者ともに首肯するであろう観点・主張があります。自分の感じ方が「楽しい」か「楽しくない」かはさておき…


「自分がその音楽のどこがどのように楽しいのかをわかっていなけば相手を楽しませることはできない」


…という考えについては、頷いていただけるかと思います。


 おそらくCPEの記述も言葉の綾というものではないかと考えます。重要であるのは、音楽の中においてどのような表情がどのような方法で表現されているかを理解していることでしょう。作曲者がどのような意図をもってそのような旋律型にしたのか、そのような和声にしたのか、そのような形式にしたのか、そのような音楽語法にしたのか…例えば、“悲しい表情の音楽” の、一体どの部分がどのような要素によって “悲しい表情” として捉えられるのか。


 ただなんとなく音楽がそんな雰囲気だと思う(もしくはそれすら考えずに楽器の操作に終始する)というのと、どのような仕組みで音楽がそのような情感をもっているのかを考えているのとでは、表現のベクトルについての確信、力量に差が生まれることでしょう。知識や分析をもって音楽を “納得” することが、相手に音楽を届ける “説得” の力になるのかもしれません。納得することによって説得ができるのです。


 

 音楽学校に入った人が朝から晩まで実技の練習に明け暮れている…という空想がどのくらい一般に浸透してしまっているかはわかりませんが、実際にはそればかりではないのですよ。殆どの音大で西洋音楽史、和声法、ソルフェージュは必修であるはずです。その他にも、対位法、楽式論、作品研究、作曲編曲法、民族音楽、環境音楽論…さらには音楽外の分野でも、美術史、演劇史、文学…色々な科目を履修できました。


 本当に演奏の練習だけしていたい人間は、これら座学系科目を邪魔なものだと思ってしまうかもしれません。「歴史や音楽理論なんか勉強しなくたって音符が読めりゃあピアノは弾けるんだよ!」というのは、確かに表面上はそう見えるでしょう。


 しかし、その音楽の様式や構造、形式などからのアプローチにより、音楽をさらに深層へと深めるためには、それ相応の見識と感覚が必要になるのです。一つの音符が表す音高と音価しか読み取れないようではそこ止まりなのです。音楽史や音楽理論やソルフェージュなどを勉強することは、音楽を深めるためのヒントを提供するからこそ必修とされているのでしょう。であるからこそ、単純な暗記や単調な訓練としてこなしてしまっては得られるものも得られないと思うのです。


 

 現時点で、僕はオンラインではありつつも和声法、コード理論、階名唱(+ 新曲視唱)などを教えていて、解説付き聴音動画を出していまして、このあとは楽典や音楽史にも範囲を拡げられたらいいなぁなどと考えているところですが、これらレッスンへのこだわりは悪い意味での実技偏重を変えたいと思っていることから来ているつもりです。もちろんピアノのレッスンも頼まれれば実施するのですけれども…


 昨今は映えることが流行りなのか、どうしても表面的に演奏できることを早々に求めがちであるように感じます。だからこそむしろ、その旋律がどのように形成されているのか…その和音がどうして選ばれたのか…その一節に作曲者が何を託したのか…様々な材料を元に、自分の中で “納得” し、“説得” する力をもって音楽をやってほしいと、僕は願うのであります。


 

P.S.

ピアノ、和声、コード理論、階名唱(新曲視唱)、楽曲分析など

各レッスン受付中です。

1コマ1時間、ピアノ5,000円、座学3,000円、各回払い。

単発OKです。また受講継続の場合もペースを月1、隔週、週1など調整できますし、毎週同じ曜日同じ時間に限らなくても大丈夫です。

当HPのContactよりお気軽にご連絡ください。

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