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執筆者の写真Satoshi Enomoto

【雑記】あなたの"好き"を語ってほしい


 せっかくのGWということで、音楽に深く関わっている友人2人と "オンライン飲み" なるものをやってみました。


 …とは言っても、アルコールを積極摂取するわけでは全くなく、SyncTubeというものを使って最近ハマっている作品を紹介する会でした。近現代好きが集まったので、ハウアーが長七の和音で終わりがちであるのが面白いとか、ヴァレーズは完璧主義者なのか充実していてカッコいいとか、オーンスタインの暴力と抒情の対比が刺激的だとか、現代音楽だけでもアメリカと中国とバルト三国を渡り歩くというカオスぶりでした。


 このような集まりは、実はコロナ前には様々なメンバーで行っていたものです。午後のうちにCDや古書を買い漁り、夜に食事をしながら "最近の推し曲" を紹介しあったものです。お互いに自分の知らない音楽を新しく知ることができたり、また既に知っていた曲でも感想を出し合うことによって新たな一面に気付いたりすることがありました。


 本当は飲み会自体はあまり好きではない性分なのですが、この「古書店巡り→その戦利品で飲み会」という流れだけはむしろ好んでいました。コロナ禍になって機会を奪われたものの一つでありまして、そこまで気にしていたつもりは無かったのですけれど、実際には無意識下では地味に残念に思っていたのだということを実感しました。


 

 ところで、実は僕が所属する合唱団DIOでもここ数ヶ月ほど「おすすめ合唱曲紹介」なるものをやっています。合唱関係者の間では知名度の高い作品が殆どではありますが、同じ曲に対してと言っても、やはり各々がその曲に抱いているものには差があったり、また新鮮な受け止め方が飛び出してくることもあって、とても刺激的なのです。


 それこそ、合唱団DIOには10年以上の付き合いになるメンバーもいます。どんな合唱曲が好きなのかということは、これまで一緒に活動してきた中でもなんとなく知る機会はありました。しかし、こうやって語ることメインの活動として聞いてみると、なるほどこの曲にはこんな思い入れを持って合唱をしていたんだなということがわかって、ただ面白いという以外にも合唱愛を感じられて嬉しくもあります。


 

 音楽に限らず、"自分の好きなものについて語ろうとすること" は躊躇されるどころか、それを聞く側からも煙たがられるものです。殊に音楽活動ともなると職人的価値観もありますから、「自分の好みなど滅してお客様の望む音楽を提供するのが職業音楽家だ」という考え方があることも理解はしています。


 ただ、僕は相手が「いかに自分がそれを好きか」を熱弁してくるのを聞くのがどうも好きな性分であるようです。相手が好きなものを好きだと語っている時に放たれている幸福感が好きとでも言いましょうか。


 これは音楽にも限らないようです。旅行先の風景がとても綺麗だったとか、あそこのカフェのパンケーキが美味しいとか、ステイホーム中にやったゲームが面白かったとか、そのようなことを片っ端から聞いていたいと思うほどです。おそらく影響されてそのカフェに足を運んだりゲームをやったりします。


 もちろん必ずしもその好き語りを聞いて僕もそれを好きになるとは限らないのですけれど、それを語る活き活きとした様子だけでも良いなあと思います。そもそも他人のエゴがあまり嫌いではないのですよね。秩序を乱すことを肯定するようですけれども。


 

 「自分の好みとは関係無く、お客様の望む音楽を提供するのが職業音楽家だ」という文言に対して僕が個人的に感じる違和感は「好きでない音楽でもやる」という姿勢です。しかし、だからといって「好きな音楽しかやらない」という姿勢では職業にはできないでしょう。


 僕が持っている信条は「やる音楽を好きにならねばならない」です。「相手が好きなものを好きでいることを感じたい」などと口先で言っておいて、「嫌いだけど頼まれたからやる」では信用ならないでしょう。


 「お前の好きなものを押し付けてくるな!」という意見は何度か受け取ったこともあります。僕としては関心の無いものや嫌いなものを押し付ける方がよほど不誠実だと考えておりますので、この自分ルールは地味にでも守っていたいと思うのであります。


 

 このこと自体は過去にも書いたり言ったりしている記憶がありますが、僕はあなたの好きなものを押し付けてほしいのです。いや、もちろんそれに対して僕の反応がイマイチだった場合には怒らないでほしいのですけれども、きっとその "好き" を語ることは「よくわからんけどいいよね」の一言で終わるほどのものではなく、タネや仕掛けがわからないなりにも熱量をもって伝えようとするものであると思うのです。そうであるならば、心ある聞き手はよろこんで自ら汲み取りに来てくれると信じています。


 自分の好きなものがもしかしたら一般にはマイノリティである可能性もあるでしょう。その中での表明はある種リスキーかもしれません。ただ、仲間を増やしてマイノリティからの逆転を実現する可能性もそこにはあると思います。


 誰が何と言おうとそれが好き。そのエネルギーが周囲を変える可能性を、もう少し信じてみてもよいのではないかと思う次第です。


 ああ、好きな音楽を紹介しあってみんなで聴くオンライン飲みは定期的にやりたいですな。

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