4/20のコンサート『ドイツ音楽の夕べ』/『月に憑かれたピエロ』が終演しました。聴きに来てくださった皆様、本当にありがとうございました。
普段「シェーンベルクを研究している」などと宣ってはいるものの、演奏する機会がそうそう巡ってくるわけでもなく、今回のコンサートが僕にとって《月に憑かれたピエロ》への初挑戦でした。
今回、自分が弾いてみて考えたことや、ちょっとした裏話なども書いていきたいと思います。
事の発端として、主催の中林さんが「30歳までに《月に憑かれたピエロ》をやりたい!」という目標を掲げていたことは以前から知っていました。大学を卒業してから、事あるごとに言っていたような記憶があります。
当人が地道に勉強していたことはなんとなく察していましたが、今回の演奏の話が転がり込んだのは昨年の10月半ばのことでした。なんでも、当初予定していたピアニストが出られなくなったそうで、シェーンベルクを弾いてくれそうな僕に白羽の矢が立ったということではないかと思います。
その時既に僕はシェーンベルクの《3つのピアノ曲》Op.11や《6つのピアノ小品》Op.19を弾いた経験をもっていましたし、作曲順に従えば次に来るであろう曲は確かに《月に憑かれたピエロ》であろうとも思われました。それを差し引いても、ここで僕が引き受けなければ、こんなに重い作品を引き受けてくれるピアニストなどそうそう見つからないでしょうから、即答で引き受けたのでした。
今更ながら、その後11月から3月まで一月に必ず1回はソロ舞台(うち12月と1月はソロ・コンサート)があったことを考えると、練習スケジュールの組み方でなんとも下手なことをやったと反省するところです。3月上旬の第1回リハーサルの時点で第2部の終わりまでも若干弾けていなかったくらいでしたから、当初はメンバーにも迷惑をかけたかもしれません。
…などと、他の回では迷惑をかけなかったかのように書きましたが、もちろん大変に苦労もしましたし、足を引っ張りまくった面は否定できません。特にその最たるものは、僕が指揮を見ながら弾くことに慣れるのが遅かったことでしょう。
普段、合唱団の伴奏などで指揮を見ながら弾いているのは事実なのですが、この《月に憑かれたピエロ》のように頻繁にテンポが変動するような音楽を、指揮に合わせて弾く経験は殆ど無かったのでした。シェーンベルクはこれまでにピアノソロか歌曲のピアノ伴奏だけしかやってきておらず、自己判断なり距離の近い共演者とのやり取りなりでこなしてきたわけですが、今回はなにせ楽器も多いし距離も遠く、全員と直接合わせるということが難しい曲が多かったので結局指揮に頼らざるを得なかったのでした。1小節ごとにテンポが変動することさえあるものですから、「指揮がどう振ったらどうすればいい!?」ということをリハ5回の中でどうにか慣れることに時間と労力をかけました。
それに関連して、舞台でのピアノ配置も少し工夫していたのですが、わかりましたでしょうか。ピアノを斜めに置いて、指揮者が視界の中に常に入っているようにしたのです。ただ、演奏が終わった今になって思うと、もう少し大きく動かしてもよかったような気がします。今後演奏する方はぜひ位置を試行錯誤してください。
また、ピアノパートの譜読みに関してシェアできそうな知見も得られましたので、ここに書いておきます。
何よりも先に言わねばならないのは、譜読みに取り掛かる順番でしょうか。ずばり、13曲目『斬首』から後ろを優先的に練習するようにしてください。12曲目より前でピアノが苦戦を強いられるであろう曲はせいぜい5曲目『ショパンのワルツ』くらいです。やはり特に13曲目『斬首』、14曲目『十字架』、17曲目『パロディ』、18曲目『月の染み』は難曲でありまして、取り掛かりが早いに越したことは無いということを言っておきたいと思います。念入りに運指、さらには右手で弾くか左手で弾くかということも重要なカギになってきます。
21曲の中でも数ヶ所には、楽譜を見ている余裕すら無いほどにピアノが忙しいパッセージがあります。法則性の見えない細かい音のパッセージや分厚い和音の連鎖については、ある程度暗譜で弾けるようにしておくことが求められるでしょう。恐らく、その場でいちいち読んで拾いきれるようなものではありません。
そのようなハードな書法に加えて、ハーモニクス奏法もピアノには見られます。これらはいずれもシェーンベルクの《3つのピアノ曲》Op.11において既出の書法ですから、《月に憑かれたピエロ》に挑戦する前にはそちらの演奏を経験しておくと大きな助けになるでしょう。
先ほども書きました通り、今回が僕にとって初めての《月に憑かれたピエロ》演奏への挑戦となりました。無傷無事故というわけではありませんでしたが、初演奏にしては及第点ではないかと自負しています。最近は「何十回と演奏してようやく音楽の深いところに到達できるのではないか」という考えなので、またどんどん再演したいです(※メンバーを集めるのさえ難しい)。どこかでピアノが足りない演奏団体がありましたらぜひお声がけください。
個人的には、まだギリギリ20代のうちにこの作品を実演できたことは非常に嬉しいことでした。共演メンバー、スタッフの皆様、ご来場くださった皆様に感謝します。ありがとうございました。
今年は12月にもシェーンベルクの《4つの歌曲》Op.2と《架空庭園の書》Op.15を演奏する企画が控えています。詳細が出ましたら、こちらもどうぞよろしくお願いします。
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