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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

2月の告知(続き)と、種を蒔いたカウエル

更新日:2019年1月14日

 2月2日のDEVTTAREのコンサートについては前の記事で書きましたが、2月にはあと2本の本番があります。まずはその告知から。

 

2019.2.3

第27回 Concert Sereno

15:30開場 16:00開演

@よこすか芸術劇場ベイサイド・ポケット(京浜急行「汐入」駅より徒歩1分)

入場無料

曲目:カウエル《3つのアイルランドの伝説》他

 

2019.2.16

及川音楽事務所サロンコンサート

13:50開場 14:00開演

@松濤サロン(渋谷駅より徒歩10分)

全席自由2,000円

曲目:カウエル《3つのアイルランドの伝説》《富士山の白雪》他

 

 2/16のサロンコンサートのチケット予約はContactフォームかメールアドレス virtuoso3104@gmail.comまで。2/3の方は出演者が全員神奈川県の公立高校の音楽科教員・講師であるため、入場無料です。

 

 この2つのコンサートの告知を同時にするのは僕がほぼ同じプログラムを弾くからでして、後者の方が1曲多く弾くことになります。で、ここでちょっとその作品の楽譜を少し見ていただきたいわけですが…


《マノノーンの潮流》より

《英雄の太陽》より

《リルの声》より

《富士山の白雪》より

 …といった具合に、一般の方々には見慣れない表記の“2音が棒の両端に刺さっているような音符”があるのがわかります。実は、これらの音符は「トーン・クラスター」と言って、腕を使って両端の音の間に存在する鍵盤を全て同時に弾く和音です。もっと厳密に言えば、音符の上に♮が付いていたら「2音間の全ての白鍵」、♯ないし♭が付いていたら「2音間の全ての黒鍵」、何も付いていなかったら「2音間の全ての鍵盤(白鍵も黒鍵も)」を弾くことを指示しています(なお《富士山の白雪》の譜例のクラスターは黒鍵にするよう言葉で指示されています)。指示通りに弾くと、調性を感じさせる和音ではなく「ドワァアアアアン」「グォオオオン」と擬音語で表現できそうな“音”が鳴ります。

 

 この曲を書いたのは、ヘンリー・カウエル(Henry Dixon Cowell, 1897~1965)というアメリカの作曲家です。実は一度だけ来日も果たしています。音大生ならば西洋音楽史の教科書にも載っているので知っているはずですが、やはり一般にはあまり知られていないでしょう。しかしこの人の弟子には有名な作曲家がいまして、その作曲家こそが《4'33"》という無音の作品を書いたジョン・ケージ(John Cage, 1912~1992)です。もちろんケージはシェーンベルクにも師事したのですが、それはカウエルによる計らいだったりもします。

 ケージはどうしても「無音」で有名になってしまっていますが、彼は音そのものがもつ“音色”に非常に興味を持っていた人で、ピアノの弦の間にボルトやゴムを挟んで音を変質させたプリペアド・ピアノを使ったり、ラジオから偶然流れる番組の音をアンサンブルのパートとして扱ったりもしました。最後にはありとあらゆる音を、敬意を込めて「ノイズ」と呼んだケージのそれは「音楽に使える音の範囲の拡大」であったわけです。

 僕はそのケージの発想が、カウエルから受け継がれたものだと思うわけなのです。1912年に、カウエルは腕でピアノを鳴らしました。その音は20世紀初頭の当時において西洋芸術音楽に使われる音とは思われていなかったでしょうが(※ただし前例のような音楽作品はちらほらある)、そこから既に「音楽に使える音の範囲の拡大」は始まっていたと考えてもよいのではないでしょうか。革命家ケージの登場は突然ではなく、カウエルの蒔いた種が遂に芽吹いたものだったかもしれないと、僕は思ったりするのです。

 

 この2月のプログラムはカウエルが蒔いた種です。ぜひ、大きな耳と少しの勇気を携えて、音の海に飛び込んでください。この音楽を飲み干した瞬間から、世界の全てが音楽になります。

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