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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

【感想】フェスタサマーミューザ2021フィナーレ:吉松隆《交響曲第2番『地球にて』》


 神奈川県の本日の新規感染者は2166人とのことです。どうにかワクチン接種の予約は取れましたが9月ですし、会食どころか外食自体を自粛中ですが、さすがにここ数日は気が滅入ってきました。また仕事も消え始めましたし。


 そんな中で目に入ってきたのが、フェスタサマーミューザのフィナーレコンサートでした。何に目を引かれたかといえば、吉松隆の《交響曲第2番『地球(テラ)にて』》がメインプログラムであるということです。前日まで迷った挙げ句、行くことにしました。


 

 公演情報を載せておきましょう。



 原田慶太楼さんの指揮に接するのは実は初めてです。


 前半プログラムはヴェルディのオペラ《アイーダ》からの凱旋行進曲とバレエ音楽、そしてアイーダからの印象を元にかわさき=ドレイク・ミュージック・アンサンブルによる《かわさき組曲》でした。


 ヴェルディについては2月頃にもこのブログで色々と言及しましたが、白状しますとそこまで好きな作曲家というわけではないのです。いや、決して嫌いではないのですが、好きでもないという状態です。どうもヴェルディの音楽は真面目さが聴こえてくるように感じてしまうのです。しかし、今日の原田さんの指揮による東京交響楽団の演奏は楽しめました!


 《かわさき組曲》は、障害のある人を支援するイギリスの音楽団体ドレイク・ミュージック、ブリティッシュ・カウンシル、川崎市、東京交響楽団の協働プロジェクトとして行われた、川崎市内の特別支援学校の生徒たちとのワークショップから作られた作品だそうです。なるほど、確かにワークショップの中で行われるであろう音楽活動を反映したような部分も聴こえ、オーケストラとしても一風変わった面白いサウンドが駆使されていました。世界初演ですし、どんな音楽なのかも聴くまでは殆ど想像できませんでしたが、期待していたものより遥かに面白い音楽でした。


 

 後半プログラムの最初は、現代アメリカのポスト・ミニマルの作曲家ジョン・クーリッジ・アダムズ(1947-)の、弦楽四重奏とオーケストラのための《Absolute Jest》でした。ペルゴレージの音楽を素材にしたストラヴィンスキーの《プルチネッラ》よろしく、ベートーヴェンの音楽を素材にして作った作品であるそうです…とプログラムでは読んでいましたが、実際に聴いてみるとジョン・アダムズ味が8割近いのではないかと思わんばかりの作品でした。もちろんベートーヴェン要素は判別できるのですが、てっきりタイトルのように冗談半分であからさまに出てくるのかと思ったら、アダムズの音楽の中で、たまにサンプリングされたベートーヴェンが顔を出す、みたいな比率に感じられました。


 弦楽四重奏を熱演したカルテット・アマービレがアンコールもやってくれましたね。ベートーヴェンの《弦楽四重奏曲 第16番》のスケルツォでした。これを聴いてようやく、「そういえば意外にベートーヴェンってミニマルっぽい要素あるんだよな…」などということに思い至りました。「ベートーヴェンをミニマル素材として扱いすぎだろアダムズwww」なんて思っていましたが、ベートーヴェンが実は結構そんな感じでしたね。



 障害者支援プロジェクトから生まれた《かわさき組曲》、耳の障害に負けずに音楽を貫いたベートーヴェンという繋がりを持たせたプログラミングでした。


 

 最初からお目当てだったのが、吉松隆の《交響曲 第2番『地球(テラ)にて』》でした。度々公言していますが、中学生の時に衝撃を受けて以来、吉松隆さんの音楽が大好きなのです。大学院時代には《ファジーバード・ソナタ》も《デジタルバード組曲》も演奏しましたし、去年の8月末には岐阜で《サイバーバード協奏曲》の室内デュオ版を演奏しました。そんな榎本が吉松隆を追う切っ掛けになったのが、シャンドスから出ていた《交響曲 第2番『地球にて』》と《ピアノ協奏曲『メモ・フローラ』》の2枚のCDだったのです。



 1991年に作曲された当初、演奏時間制限の都合上から『地球にて』は3楽章構成でした。僕が持っているCDに収録されているのも3楽章構成のものです。カットされていたスケルツォが2002年に復活したことは作品情報から知っていたのですが、それを聴ける機会が今の今まで無かったのでした。2002年改訂版を聴いたのは今日が初めてだったわけです。《交響曲 第5番》のスケルツォにも似たジャズ風味のものでしたね。


 それこそ15年前にCDで初めて聴いて大きな衝撃を受けた作品を、今こうして4楽章(東西南北が振り分けられている)が揃った状態で生で聴けるというだけでもありがたいのに、今日の演奏のクオリティも非常に高かったと思います。それぞれの楽章の性格付けから、それに由来する細かな演奏表現まで神経が行き渡っているようで、同時にゴリゴリと音楽を鳴らすエネルギー放出は損ねていなかったというバランス感覚はお見事でした。原田さん自身のサクソフォンでの演奏経験も役に立っているのでしょう。


 作曲者曰く『地球にて』はレクイエムです。原田さんはそこに着目して『地球にて』を選曲したようです。新型コロナウィルスの猛威は、日本のみならず世界にとっての脅威でありまして、東西南北全方位へのレクイエムというコンセプトを持つこの作品は、世界の現状にも合致してしまうのでしょう。事態は終わるどころかこれから始まるところなのでしょうが。


 曲自体はレクイエムですが、今日のコンサートから僕が受け取ったものはむしろ生きていくためのエネルギーであると思います。ワクチンは来月まで待たねばならないし、また仕事は消え始めているし、神奈川県の病床は徐々に無くなりつつあるし…と、マスク・消毒生活自体を特に苦とは感じない僕でも気が滅入る日々が続いているのですが、やはり良い音楽を全身に浴びるとメンタルが持ち直すような感覚があります。


 まだ生きられそうです。

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