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  • 執筆者の写真Satoshi Enomoto

12/16リサイタルへのノート

 まず12/7現在でチケット売り上げが30枚に達していることを報告します。40席中30席売れれば上出来だよね、などと宮口さんとは話していたので上出来ラインです。ありがとうございます。

 

 さて、今回デュオを組んだ宮口遥名さんは大学と大学院での1年後輩にあたります。宮口さんと同門だった僕の同級生からは「そこ知り合いだったの!?」と驚かれたりするわけですが、学部時代に上級英語のクラスが一緒だったので以前から面識はあったのです。そして僕が第88回、宮口さんが第89回の横浜新人演奏会に出演するというルートを辿ったこともあり、では横浜で何か企画しようとなったのが今回のデュオリサイタルの発端です。合唱部出身という共通点もあって意気投合した面もあるのですが。


 

 プログラムを何にするかということで最初に挙がったのはドビュッシーでした。何と言っても今年2018年はドビュッシーの没後100年にあたり、あちらこちらでドビュッシーの作品が演奏されています。現に僕も《ピアノのために》と《版画》を色々なところで弾きました。

 ではドビュッシーをやるとして、何を弾こうか。まず真っ先に浮かぶドビュッシーの連弾作品を問えば、10人中9人くらいは《小組曲》と答えるでしょう。僕も今年に入ってから生演奏で3回くらい聴きましたし、ピアニストの友人たちも数人弾いていました。だからこそ、僕はむしろ《小組曲》を避けたいと思っていて、そこで最初に提案したのが《6つの古代の碑銘》でした。冒頭の単旋律を初めて聴いた時からこの作品に魅せられていて、いつか演奏したいと思っていたのです。《6つの古代の碑銘》の原曲は、ピエール・ルイスの詩に基づく付随音楽《ビリティスの歌》と言いまして、元々は朗読、フルート×2、ハープ×2、チェレスタという編成で、《ピアノのために》や《版画》などと同時期に書かれた作品です。それを1914年にドビュッシー本人が加筆再構成したものがこの《古代の碑銘》であるわけです。そのため、五音音階や全音音階がストレートに出てきたかと思えば《前奏曲集》のような書法や無調的な和音まで登場する、意外なほど入り組んだ音楽になっています。宮口さんも賛成してくれたので、この作品がメインプログラムとなりました。

 《古代の碑銘》だけでは演奏時間は15分ほど。さすがに短い。これは何かもう1曲やりたい。しかし手元の連弾曲集に収録されているのは《小組曲》《古代の碑銘》《民謡の主題によるスコットランド行進曲(別名:旧ロス伯爵家の行進曲)》の3作品のみ。《小組曲》は避けたい。《スコットランド行進曲》はパッとしない(ドビュッシーには申し訳ないが…)。そこで他に何か良い曲は無いかとドビュッシーの作品目録を調べました。するとすぐに妙に気になる作品を見つけたのです。そう、ピアノ連弾のための《交響曲 ロ短調》です。ドビュッシーが18歳の時に作曲し、その死後に発見された、オーケストレーションされなかった“交響曲”のうちの一つの楽章。横浜のヤマハで在庫を見つけて楽譜を手に入れました。読んでみたところ、これがもうほとんどチャイコフスキーのような音楽で衝撃を受けました。そう、確かにチャイコフスキーのパトロンであったフォン・メック夫人にドビュッシーはピアニストとして雇われていました。そこでドビュッシーはメック夫人を通してチャイコフスキーの作品の楽譜を手に入れて勉強し、《ボヘミア風舞曲》というピアノ曲をチャイコフスキーに送って見てもらうことまでしています(ちなみにこれは酷評された)。作曲年は1880年、チャイコフスキーが交響曲第4番を書いた3年後であり、これは影響を受けたものと考えてほぼ間違いないのではないかと思います。

 《交響曲》はドビュッシーの目録の中では最初のピアノ連弾作品であり、一方の《古代の碑銘》は最後のピアノ連弾作品にあたります。ここに、ドビュッシーの連弾プログラムは決定しました。すなわち、ドビュッシーの「最初」と「最後」です。ドビュッシーイヤーを締め括るのに相応しい2曲を並べたと自負しています。


 

 一方で、ソロの部では一瞬だけ「オール・ドビュッシープログラム」も考えなくはなかったのですが、やっぱり互いの得意分野をやった方がいいだろうという結論に落ち着きました。なのに、ここでも榎本はレパートリーですらないモーツァルトを弾くことにしました。友人のほぼ全員に「似合わねーーー!」と言われたわけですが、これでも大学院で古楽を少し齧ってから修了後も自分なりに勉強していて、だんだんモーツァルトの面白さ、というかベートーヴェンに匹敵するほどの革新性に気付くようになったので、こっそりと挑戦の機会を窺っていたのです。そして最後に背中を押したのは、デュオを組んだ宮口さんの専門とする研究対象がまさにモーツァルトであるという事実です。つまり、心強い味方がいるということです。現に、モーツァルトの音楽について宮口さんに相談したりもしました(先輩の威厳など無い)。僕のモーツァルトがどうなるかは置いといて、宮口さんのモーツァルトは本当に絶品です。宮口さんは終楽章のトルコ行進曲が有名なソナタK.331を、榎本は幻想曲K.475とソナタK.457(2曲合わせて「ハ短調の幻想曲とソナタ」として有名)を弾きます。なんだかんだでこちらも結局チャレンジです。


 

 早いもので、リサイタルはもう1週間後に迫ってきました。大好きなモーツァルトとドビュッシーの音楽を充実した演奏でお届けできるよう、最後まで頑張ります。どうぞよろしくお願いします。


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